翻訳|netting
グループ企業など緊密な関係にある企業間で、各種取引に伴う受取債権と支払債務を相殺し合い、債権・債務の差額である正味(ネット)額のみを送金決済すること。これによって、個々の取引ごとに決済する場合に比べて、外国為替(かわせ)の売買マージンや送金手数料を大幅に節約することができ、なおかつ管理システム次第で、グループ企業全体の為替リスクを一元的に効率よく管理することができる。
たとえば、日本の本社とアメリカの子会社といったように、2社の間で行うネッティングは、バイラティラルネッティングといわれ、きわめて単純である。両社は一定期間(通常6か月)になされた取引を逐次決済せず、オープンアカウントとよばれる勘定に共通の通貨(ドルまたは円)で貸借記帳する。それを、周期的決済日に相殺し、ネット分だけを送金決済する。
原理は同じものの、3社以上でなされる場合はやや複雑になり、マルチネッティングとよばれている。この場合、一般には、本社財務部ないしは国際金融子会社をネッティングセンターとして、ここへメンバー各社間でなされた膨大な量の各種取引の情報を報告し、集約する。その際には、種々の通貨建てでなされる取引は、一定期間安定的に維持された換算レートで、共通の通貨建てに換算して記帳される。それを、期日にはセンターが集計し、各社ごとのネット債権・債務を確定して通知し、通常の方法としては、メンバー各社はセンターとの間でネット分を決済する。これによって、大幅に債権・債務は相殺され、送金決済の手間が省かれるし、巨大多国籍企業のように多数のメンバー各社間で取引関係がいかに複雑に錯綜(さくそう)していようと、すべてセンターとのネット債権・債務に置き換えられれば、センターが引き受けたネット債権・債務の合計額はゼロになり、きわめて簡潔な管理ができる。さらに、センターとメンバー各社間で、ネット分の決済を行う際に、一定期間安定化された換算レートに基づいて現地通貨での受払いがなされるならば、メンバー各社は為替リスクから解放され、グループ企業全体の為替リスクを専門集団であるセンターが一元的に管理することができる。
このようなネッティングの導入では、日本企業は欧米企業の後塵を拝し、1998年の外国為替及び外国貿易法(新外為(がいため)法)の施行を契機に関心が高まり、近年ようやく本格化しつつある。基本的要因としては、日本企業の海外事業展開が立ち遅れ、国際ロジスティック(物流)が比較的単純であったためと考えられる。なぜならば、複雑なロジスティックによって、債権、債務が錯綜しているほど、ネッティングの効果が大きいからである。しかし、直截(ちょくせつ)的な理由は、日本の外為法において、最後まで「原則として、外国為替の取引は外国為替銀行を通じて行う」という「為銀主義」が遵守されてきたからである。外国為替銀行を通じて決済をせず、メンバー各社間で相殺してしまうネッティングは、それに反する行為として、長らく制限されてきた。法改正によりその制限が解除された今日では、メンバー各社の設立されている国の規制も考慮しなければならないが、ほかの国際財務の一元的管理システム(インターナショナル・キャッシュ・マネジメント)ともあわせた高度なシステムづくりが進行している。
[中條誠一]
出典 (株)外為どっとコムFX用語集について 情報
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