ドイツの数学者。代数曲線論で知られるマックスMax Noether(1844―1921)を父としてエルランゲンに生まれる。初め、父の友人ゴルダンPaul Gordan(1837―1912)に不変式論を学んだ。1915年ゲッティンゲンに移り、ヒルベルトの下で研究を始めた。まず可換環において、イデアルの基底定理を約鎖律にいいかえ、その下で準素イデアルへの分解とその一意性について調べた。約鎖律とは極大条件にほかならず、今日、極大条件を満たす環をネーター環とよぶ由来はここにある。ついでデーデキント環の公理的建設を成し遂げたが、これにあたっては約鎖律のほかに倍鎖律を入れ、かつ整閉性の概念を導入した。判別式の研究では局所的考察を有効に取り入れたが、この研究で可換環から非可換環への転機がなされたと思われる。
ネーターの真骨頂、抽象代数学の真価は非可換環論にあり、群環を含む準単純環の理論の完成にある。すなわち、単純環Aは斜体Dにおける完全行列環に同形になること、単純環をそのDによって分類して得る類がテンソル積の下で群(Brauer群)をつくること、それから単純環の分解概念へ、そしてガロア接合積へ、ひいては因子団の概念へと導いていった内容は、多彩で、その抽象的手法は鮮やかであった。しかもこの結果は整数論とも深く関連し、のちにこれが類体のコホモロジー論化へ導く転機を与えることになった。そして彼女の学風は全数学の抽象化に強い影響を及ぼした。これらの研究は、彼女の下に集った若い数学者、正田建次郎やファン・デル・ワールデンBartel Leendert van der Waerden(1903―1996)、あるいはアルティン、ブラウアーRichard Dagobert Brauer(1901―1977)、H・ハッセらとの討論の下で行われた。1933年、ユダヤ人の彼女はナチスの迫害を逃れてアメリカに渡り、1935年、病を得て客死した。
[秋月康夫]
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ドイツの数学者。エルランゲンでM.ネーターの子として生まれた。当時大学では女性差別があり,初めエルランゲン大学で数学と語学の聴講生になり,1903年にはゲッティンゲン大学に移り数学の聴講を始めたが,04年に正規の学生として認められ,07年に学位を得た。しかし,女性差別のためなかなか教職にはつけず,ヒルベルトが無給で雇うことを提案しても実現しなかった。ようやく22年に非公式準教授として教えることができるようになった。しかし,33年にユダヤ系ということで免職になり,アメリカのペンシルベニア州にあるブリンマーカレッジに移った。35年に手術の予後不良のため突然他界した。数学上の業績のうち特記すべきものは抽象代数学,とくに環論の建設であり,正田建次郎は彼女の弟子の一人である。現在でも,ネーター環という用語が彼女にちなんで用いられている。
執筆者:永田 雅宜
ドイツの数学者。マンハイムの商人の子として生まれ育ったが,14歳のとき小児麻痺にかかり,以後その後遺症で歩行困難になった。ギムナジウムの教科内容は在宅のまま教わったが,その後独学で大学レベルの数学を勉強した。1865年にハイデルベルク大学に入り,68年に学位を得,74年に準教授,翌年準教授としてエルランゲン大学に移り,88年に正教授となり,1919年に退職,名誉教授となった。ネーターは,N.H.アーベルやG.F.リーマンの代数関数論と,J.プリッカー,A.ケーリーらの代数曲線論とを基礎にして代数幾何学を築いたのであり,クレモナL.Cremona(1830-1903)の影響を受け,また,逆にいわゆるG.カステルヌオーボ,F.セベリなどのイタリア学派に大きな影響を与えた。
執筆者:永田 雅宜
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…それはユークリッド空間を無限次元に拡張したもので,解析学の各方面に応用される。 1920年代のヨーロッパは二つの戦争の間にあり政治的には不安定であったが,ワイマール政府の下のドイツのゲッティンゲン大学には,ヒルベルトとともにE.ネーターが活躍し,抽象代数学の研究の中心となった。同じころポーランドにはS.バナッハらがいて位相数学(トポロジー)が盛んに研究された。…
…上の例ではy=axやu2+v2=1の種数は0であり,u2=v3+1の種数は1である。 リーマンの考察は解析的であったが,彼の理論を代数的,幾何学的に再構成し,代数曲線論と呼ぶのにふさわしくしたのはM.ネーターであった。ネーターはさらに代数曲面をも考察し,彼の研究はF.エンリケス,G.カステルヌオーボらのイタリア学派に引き継がれ,20世紀前半に代数曲面論が建設された。…
※「ネーター」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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