バブーフ(その他表記)François-Noël Babeuf

デジタル大辞泉 「バブーフ」の意味・読み・例文・類語

バブーフ(François Noël Babeuf)

[1760~1797]フランス革命家思想家私有財産制廃止を主張し、共産主義独裁政権の樹立を目ざして総裁政府転覆を企てるが、逮捕・処刑された。その武装蜂起による権力奪取や革命的独裁の理論は、のちにマルクスブランキらに影響を与えた。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「バブーフ」の意味・読み・例文・類語

バブーフ

  1. ( François-Noël Babeuf フランソワ=ノエル━ ) フランスの革命家。革命の初期には封建制の廃止、共和政確立を唱え、ブルジョア共和派と対立。革命末期には私有財産制の廃止を主張する「平等者宣言」を行ない、総裁政府打倒を企てたが逮捕、処刑された。(一七六〇‐九七

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「バブーフ」の意味・わかりやすい解説

バブーフ
François-Noël Babeuf
生没年:1760-97

フランス革命の末期に,一種の共産主義思想を抱いて政府転覆事件を起こした革命家,思想家。古代ローマの改革者グラックス兄弟の名をとって,みずからグラックス・バブーフと名のった。北フランスの小都市で貧しい徴税役人の家に生まれ,父親から読み書きを教えられただけで正規の教育を受けなかったバブーフは,17歳ころから領主の所領管理人のもとで徒弟として働き,やがて故郷に近いロアという町でみずからも領主の土地台帳管理人として自立し,その間の経験から土地問題をはじめとする社会問題に目を開かれた。さらに啓蒙思想家たちの著作に親しみ,アラスのアカデミーと文通などをするうち,しだいに急進的な改革思想を抱くにいたり,1787年から89年にかけて自分の経験をもとに,農地の再分配による富の平等化と租税制度の改革を目ざす《永久土地台帳》を書き上げ,89年に出版した。同年に革命が勃発すると,単身パリに出て深い感銘を受け,ロアに戻ってからは,その地方の農民運動の組織化に尽力し,92年には地区の行政官になったが,職務上のミスを政敵につかれて職を追われた。

 93年からパリに移った彼はエベール派と接触していたが,94年テルミドール9日の後には,〈選挙クラブ〉という結社に属して民衆運動の再興をはかるとともに,《出版自由新聞》(まもなく《護民官》と改題)を発行して反動化の風潮に抵抗し,95年に逮捕された。やがて出獄した彼は,総裁政府の反動性を厳しく批判して地下に潜伏し,96年にブオナローティマレシャルらとともに〈秘密総裁府〉という地下指導部を設けてパリの民衆に反政府蜂起を呼びかけた。この政府転覆の秘密計画は〈平等派の陰謀〉とも呼ばれ,1793年の憲法の復活,平等と自由の徹底,共同の幸福の実現,などをスローガンとし,秘密工作員による宣伝活動を展開して武装蜂起の準備を進めた。しかし,内部の裏切りによってこの陰謀は政府の知るところとなり,96年5月バブーフは同志とともに逮捕された。同年10月から翌年にかけての長い裁判ののち,97年5月に死刑を宣告されたバブーフは短剣で自殺をはかったが果たさず,5月27日に処刑された。

 彼の思想は,平等主義を徹底させるとともに,主要な生産手段としての土地について私的所有を認めず,〈財産と労働をともにする共同体〉を実現しようとするものであり,共産主義の先駆とされるが,そこには,資本主義の進展によって没落しつつあった北フランスの貧農層の反資本主義的共同体思想が色濃く投影されている。また彼は,組織された武装蜂起によって国家権力を奪取するという革命理論を提示したが,この理論はブオナローティによって革命的独裁の理論として定式化され,後世に大きな影響を与えた。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「バブーフ」の意味・わかりやすい解説

バブーフ
ばぶーふ
François-Noël Babeuf
(1760―1797)

フランスの思想家、革命家。古代ローマの改革者の名をとってグラックス・バブーフGracchus Babeufと自ら名のった。北フランスのサン・カンタンの貧しい徴税吏の家に生まれた。父から教育を受けたのち、15歳ごろから領主の領地管理人の見習いとして働いた。領主の土地台帳を調べ領地を測量して、領主と農民の権利関係を確定する仕事に従事するなかで、土地制度が農民の苦難の原因であることを知ると同時に、ルソーなどの啓蒙(けいもう)思想家の著作を読み、社会改革の必要を痛感した。農地の再分配と租税制度の改革を訴える『永久土地台帳』の出版(1789)がその最初の表現である。

 フランス革命の勃発(ぼっぱつ)(1789)とともにパリに出て、平等の実現を訴えるパンフレットを出版して政治運動に加わった。1790年から1791年にかけて、故郷に近いロアで『ピカルディー通信』誌を発行して農民の反税闘争を指導した。1793年、再度パリに出てエベール派と結んだが、1794年の「テルミドールの反動」直後、『出版自由新聞』(のちに『護民官』と改題)を刊行して民衆運動の再建に努めた。1795年2月に逮捕されたが、獄中でブオナローティなどの革命家と知り合った。同年秋に出獄後、「1793年憲法」の復活、平等と自由の実現を求めて、ブオナローティらと共同して武装蜂起(ほうき)の準備を進めたが、内部の裏切りによって発覚し、逮捕された。六十数回の審理ののち、1797年5月26日に死刑が確定し、翌27日ギロチンで処刑された。

 彼の共産主義は、近代的労働者の解放思想ではなく、封建的租税制度と資本主義化の進行によって深刻な貧困と隷属に突き落とされている貧農の共同体による解放の思想というべきである。しかし徹底した平等主義と、武装蜂起と過渡的な革命的独裁によって共産主義を実現するという主張は、ブオナローティによって広められ、その後もブランキ、マルクス、レーニンなどの革命思想のなかに生き続けた。

[阪上 孝]

『柴田三千雄著『バブーフの陰謀』(1968・岩波書店)』『平岡昇著『平等に憑かれた人々――バブーフとその仲間たち』(岩波新書)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バブーフ」の意味・わかりやすい解説

バブーフ
Babeuf, François-Noël; Gracchus Babeuf

[生]1760.11.23. サンカンタン
[没]1797.5.27. バンドーム
フランス革命期の革命家,共産主義者。父から教育を受けたのち,1785年からピカルディーの小村ロアで土地台帳監査官として働いた。 89年バスティーユ攻撃の報を聞いてパリにおもむき,富の独占の摘発や,国王の廃止と共和国の樹立を要求する文書を発表,この間数回逮捕された。テルミドールの反動以後『護民官』 Tribun du peupleを宣伝紙として「財産の平等」のためのたたかいを進め,93年「1791年憲法」への復帰を呼びかけた。 96年3月 S.マレシャル,A.ダルテ,P.ブオナロッティらとともに反乱の秘密組織を結成,5月蜂起のための最終的な連絡会議を開いたが,5月 10日全員逮捕された。これは史上「バブーフの陰謀」と呼ばれる。彼は獄中,ブオナロッティらとの交流で独自の共産主義思想に到達し,出獄後の蜂起は私有財産制廃止を目的にしたものであった。革命は少数の革命家による権力奪取と革命独裁によってのみ実現可能という主張は,のちの共産主義思想に大きな影響を与えた。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「バブーフ」の意味・わかりやすい解説

バブーフ

フランス革命期の最も急進的な革命家。古代ローマの政治家グラックス兄弟の名にちなみ自らグラックス・バブーフと名のる。1796年革命独裁を通じて共産主義社会を建設するため総裁政府打倒の陰謀を計画し,逮捕・処刑された。その思想はブオナローティの著作を通して,19世紀の革命運動に影響を与えた。
→関連項目ブランキ

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「バブーフ」の解説

バブーフ
François-Noël Babeuf

1760~97

フランス革命期の革命家。ピカルディ地方に生まれ,革命の勃発とともに故郷で政治運動に投じ,1793年からパリに出て新聞『護民官』を刊行して最急進派の一人となる。総裁政府下の96年5月に陰謀の件で逮捕され,裁判ののちに処刑。共産主義と革命独裁を掲げた点で,19世紀の革命運動に大きな影響を与えた。

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「バブーフ」の解説

バブーフ
Francois Emile Babeuf

1760〜97
フランス革命末期の社会思想家・革命家
パリ北方の農村で土地台帳監査官をしながら封建制の矛盾を痛感し,フランス革命を契機として土地私有制を否定する独自の共産主義的な思想をいだいて実践活動にはいった。「護民官」紙を発行,秘密結社「平等者」を組織して,1796年総裁政府打倒を企てたが,発覚して翌年処刑された。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

世界大百科事典(旧版)内のバブーフの言及

【パフォーマンス】より

…〈演奏〉〈上演〉〈実行〉〈性能〉などの通常の意味とは別に,既存のジャンルや枠組みから外れた芸術や社会行為を指す非常に幅広い概念。〈パフォーミング・アーツ〉(舞台芸術,上演芸術)から区別された意味での〈パフォーマンス・アート〉は,1950~60年代の〈ハプニング〉や〈イベント〉の延長線上にあり,今日ではこれらを含めて〈パフォーマンス〉ないしは〈パフォーマンス・アート〉と呼ぶことが多い。ハプニングやイベントは,既成の様式やジャンルを解体する〈反芸術〉であり,1910年代のイタリアの未来派ダダの影響を受けている。…

【フルクサス】より

…1960年代に,ハプニングを表現形態として活動を行った国際的な芸術家のグループ。名称はラテン語に基づき〈流体の〉〈崩壊途上の〉などの意。…

※「バブーフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android