古代ローマで平民救援に当たった平民の役職。いわゆる護民官,平民トリブヌスは元来,臨戦態勢下の平民の指導者で,彼の身体生命の不可侵と侵犯者への復讐を誓う平民に守られた。本来の国家公職でないので平民が毎年,平民会で選挙し,前449年には定員10名が確定した。主務は何より平民救援で,公職者,特にコンスルの懲戒や公務執行を干渉権で阻止し,抵抗すれば逮捕,投獄し得た。民会立法,元老院決議にも干渉権を発動し,公職者の職権濫用,背任を民会裁判に付して罰金刑,死刑に処し,また決議や平民アエディリス,護民官の選挙のため平民会を主宰した。この多分に国制外的な抵抗活動が平民の身分闘争を支えた前5,4世紀,貴族側は護民官の一部を抱きこみ,干渉権を同僚に向けさせるなどの手段で対抗したが,前287年,ホルテンシウス法により平民会決議が国法と同じ効力を持つようになると,護民官の権限も増大する。元老院は護民官に平民会決議案の協議を認め,後に元老院の開催要求すら許し,この職を体制に取りこんだ。長い闘争停止,グラックス兄弟の改革と挫折を経,前1世紀にスラの反動的規制をのりこえて再生したこの職は,ポプラレス(民衆派),オプティマテス(閥族派)の抗争の具に化し,カエサルが護民官の不可侵性を分離取得するという変則例さえ生じた。帝政下に元首は人民保護を自任し,護民官権限の取得回数で治績を示したが,護民官の官職は本来の意義を失い,5世紀まで単に形骸をとどめた。
執筆者:鈴木 一州
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古代ローマの平民の指導者、のちに官職名となる。紀元前5世紀初め貴族との身分闘争で平民(プレブス)の指導者であったものが、両者の争いが終わっても国家全体によってその存続を許された。前5世紀にその数は10人となり、平民会で選挙された。その役割は平民の生命・財産を守ることにあり、そのために政務官の行うすべての行動、選挙、民会でつくられた法律、元老院議決、などに対する拒否権を使うことを許され、その妨害行為を守るために平民全体は神聖な誓約に基づいて護民官の神聖不可侵を擁護した。護民官はまた平民会を招集し、主宰した。前287年平民会決議が民会の決定(法律)と同じ効力をもつようになると、護民官は初め元老院会議の傍聴を許され、やがて政務官の一つとなって、護民官就任者は元老院議員となることを許された。こうして、かつては国家に対する革命的勢力であったものが、いまや体制化された。この革命的色彩を復活させたのがグラックス兄弟の改革運動であったが、元老院は最終元老院議決をもってこれに対抗した。しかし、あらゆる国事行為を拒否できた護民官職権の強さは忘れられることなく、アウグストゥス以来、護民官職権は皇帝権力のもっとも重要な柱として使われた。これと並行して護民官そのものも存続し、元老院議員の経歴のなかの一階梯(かいてい)であったが、職務内容はまったくなくなった。それでも5世紀になっても、護民官が存在した痕跡(こんせき)がある。
[弓削 達]
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古代ローマの官職。プレブスの生命,財産を守るために生まれた官職で,伝承では前494年に設けられたといわれる。任期1年。プレブスから選ばれる。定員は前449年以降10人。身体は神聖不可侵とされ,政務官や元老院の決定に拒否権を行使できた。平民会の議長。共和政末期には重視されて政争の具となったが,帝政期にはもっぱら皇帝の名誉職権となり,本来の機能を失った。
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…同年に革命が勃発すると,単身パリに出て深い感銘を受け,ロアに戻ってからは,その地方の農民運動の組織化に尽力し,92年には地区の行政官になったが,職務上のミスを政敵につかれて職を追われた。 93年からパリに移った彼はエベール派と接触していたが,94年テルミドール9日の後には,〈選挙クラブ〉という結社に属して民衆運動の再興をはかるとともに,《出版自由新聞》(まもなく《護民官》と改題)を発行して反動化の風潮に抵抗し,95年に逮捕された。やがて出獄した彼は,総裁政府の反動性を厳しく批判して地下に潜伏し,96年にブオナローティ,マレシャルらとともに〈秘密総裁府〉という地下指導部を設けてパリの民衆に反政府蜂起を呼びかけた。…
…ケントゥリア民会の選挙後,コンスルはクリア民会でインペリウムを受け,先導リクトルの斧と棒に生殺与奪の大権を示しつつ民政,軍事,祭祀,民会・元老院の開催等,国政全般を主導した。下位公職者への干渉権,市民懲戒の強権も帯びながら在任中は弾劾を免れ,元老院,護民官の掣肘と1年任期,同僚制の厳守が専制を防いだ。独特なのは同僚制で,コンスル2名は同一権限の全く対等な立場にあり,干渉による公務差止めが互いに可能なので,ローマ市内では月番交替で執務し,戦地では1日交替とするか,任地を分けた。…
…軍事ないし内政の危機の際にコンスル(執政官)が指名する。ディクタトル(古名,歩兵マギステル)は騎兵マギステルを補佐に指名し,難局打開まで全市民,全公職者を命令権下におき,護民官の干渉も退けたが,任期は6ヵ月を超えなかった。前5世紀の十数例,前4世紀の約40例は上記〈国務執行〉の全権を持つが,前3世紀の約20例は(前287年のホルテンシウス,前217年のファビウスその他を除き)多くが民会開催などの特定権能しか持たず,以後,跡を絶つ。…
…平民の中の有力者は貴族との同権化を欲し,貧民は土地と,貴族の政務官(マギストラトゥスmagistratus)の横暴からの安全と自由などを求め,平民は大挙してローマ市から退去して近くの聖山(モンス・サケル)に立てこもった。貴族は譲歩し,その結果平民の権利を守る護民官と市場管理官(アエディレスaediles)の2役と,平民だけの集会(平民会。コンキリウム・プレビスconcilium plebis)の設置を認めた。…
※「護民官」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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