改訂新版 世界大百科事典 「ヒルデブラントの歌」の意味・わかりやすい解説
ヒルデブラントの歌 (ヒルデブラントのうた)
Hildebrandslied
古高ドイツ語で書かれた,ドイツに伝わる唯一のゲルマン英雄歌謡。68行の断片からなる。東ゴート王テオドリックの老臣ヒルデブラントは,30年の亡命の後故国に帰ろうとして,オドアケル王の国境を守る息子ハドゥブラントHadubrandに出会うが,息子はヒルデブラントを父とは信じず,ついに父子は一騎打ちを始める。断片はここで終わるが,古北欧のエッダにある《ヒルデブラントの死の歌》によれば,父が子を倒す結果が推測される。父子相克のテーマはインド・ヨーロッパ語族に共通して見られる。この歌は初めランゴバルドで成立し,古高ドイツ語(バイエルン方言)で書かれていたが,840年ころフルダで神学書の両表紙に書き写された際に,相当数の低地ドイツ語形が混入したと考えられている。やや不完全な頭韻が用いられ,神への呼びかけも見られるところから,ゲルマン歌謡としては末期のもので,すでに改宗した詩人の作と推定される。写本断片は第2次大戦後所在不明になっていたが,最近アメリカで発見され,現在はカッセル州立図書館にある。なお,13世紀には父子の和解で終わるバラード《新ヒルデブラントの歌》ができ,19世紀まで愛好された。
執筆者:石川 光庸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報