ヒルデブラントの歌(読み)ひるでぶらんとのうた(英語表記)Hildebrandslied

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒルデブラントの歌」の意味・わかりやすい解説

ヒルデブラントの歌
ひるでぶらんとのうた
Hildebrandslied

古高ドイツ語で書かれた作者不明の断片的な英雄歌。現存写本は800年ごろフルダの修道院に由来する。頭韻を用い簡潔で力強い文体で書かれたこの作品は、古高ドイツ語でゲルマンの英雄を扱った唯一のもの。ベルンのディートリヒ王に仕えた英雄ヒルデブラントは30年の異国漂泊ののち故国に帰ってくるが、国境で警備の任についている若武者ハドブラントに入国を阻まれる。押し問答のすえ、戦いが始まろうとする。ヒルデブラントはハドブラントの素性を問う。ハドブラントは誇らしげに家柄を名のる。ヒルデブラントは若武者がわが子であることを知り、戦いを避けようとする。腕輪を与え、父の名のりをあげるが、子は策略だとして信じない。やむなく一騎打ちが始まり、激しい太刀(たち)さばきに両者の盾は切り取られ、小さくなる……というところで惜しくも断片は終わっている。テーマ、描写ともドイツ古代英雄叙事詩おもかげを伝える貴重な作品である。

[谷口幸男]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヒルデブラントの歌」の意味・わかりやすい解説

ヒルデブラントの歌
ヒルデブラントのうた
Hildebrandslied

古代ドイツの英雄叙事詩。ゲルマン民族移動時代の異教的文学の唯一のもので,頭韻をふんだ 68行から成る断片が現存。 810~820年頃フルダの修道院の2人の僧により古代低地ドイツ語で,ラテン語祈祷書表紙の裏に書きつけられたものだが,成立は8世紀の初頭と推定される。内容は,東ゴート族の王ディートリヒの忠実な臣下ヒルデブラントが王とともに故郷を離れ,30年後にフン族の助けにより帰郷するが,事情を知らない自分の息子ハドゥブラントと出会い,敵味方に分れて戦うというもの。

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