日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒルデブラントの歌」の意味・わかりやすい解説
ヒルデブラントの歌
ひるでぶらんとのうた
Hildebrandslied
古高ドイツ語で書かれた作者不明の断片的な英雄歌。現存の写本は800年ごろフルダの修道院に由来する。頭韻を用い簡潔で力強い文体で書かれたこの作品は、古高ドイツ語でゲルマンの英雄を扱った唯一のもの。ベルンのディートリヒ王に仕えた英雄ヒルデブラントは30年の異国漂泊ののち故国に帰ってくるが、国境で警備の任についている若武者ハドブラントに入国を阻まれる。押し問答のすえ、戦いが始まろうとする。ヒルデブラントはハドブラントの素性を問う。ハドブラントは誇らしげに家柄を名のる。ヒルデブラントは若武者がわが子であることを知り、戦いを避けようとする。腕輪を与え、父の名のりをあげるが、子は策略だとして信じない。やむなく一騎打ちが始まり、激しい太刀(たち)さばきに両者の盾は切り取られ、小さくなる……というところで惜しくも断片は終わっている。テーマ、描写ともドイツ古代英雄叙事詩のおもかげを伝える貴重な作品である。
[谷口幸男]