都市に特有の気候。都市域では、人口集中による人工排熱の増加と地表面の人工化(コンクリート建造物、アスファルト道路など)によって、周辺の郊外・農村地帯に比べて、気温が高くなるヒートアイランド現象や乾燥化などが顕著に認められる。欧米や日本など、先進国の大都市では、1950年代から1970年代にかけて工場からの煤煙(ばいえん)や自動車の排気ガスなどによる大気汚染が進み、スモッグ(都市の煙霧)による日射量の減少や視程の悪化が深刻な社会問題となったが、1990年代以降は大気汚染防止に関する厳しい法的規制によってかなり改善された。一方、アジアの開発途上国では、飛躍的な経済活動の進展によるエネルギー消費量の急増が、深刻な大気汚染問題を引き起こしている。
都市気候は、都市の規模やその地理的位置によって差が生じるが、一般に人口が多い大都市ほど顕著になる。また、同一の都市でも、時代とともに人口が増加して都市活動が盛んになると、都市気候の現象が強化される。たとえば、世界有数の大都市である東京を例にとると、明治期の30年間(1881~1910年)と昭和・平成期の30年間(1981~2010年)では、以下に示すような顕著な変化が認められる。
●東京都心部における都市気候の変化の例
【1881~1910年】
平均気温:13.7℃
相対湿度:75%
降水量:1495ミリメートル
冬日:66.6日
熱帯夜:1.3日
真夏日:30.5日
猛暑日:0.2日
【1981~2010年】(1881~1910年からの変化)
平均気温:16.3℃(+2.6℃)
相対湿度:62%(-13%)
降水量:1529ミリメートル(+2%)
冬日:5.7日(12分の1)
熱帯夜:27.8日(21倍)
真夏日:48.5日(1.6倍)
猛暑日:3.2日(16倍)
(注:気象庁ホームページの統計データによる)
これをみると、平均気温の上昇と相対湿度の低下が著しく、降水量は若干増加している。明け方の最低気温が0℃未満の冬日は激減する一方、夜間の最低気温が25℃以上の熱帯夜は激増している。夏季日中の最高気温については、30℃以上の真夏日の増加や35℃以上の猛暑日の激増が注目される。
また、1980年代以降、東京などの大都市では、夏季の午後に突然局地的な豪雨が発生し、道路が冠水したり住宅が浸水したりする被害にみまわれることがあり、「ゲリラ豪雨」ともよばれて社会的な関心も高い。これは、都市気候におけるヒートアイランド現象もその一因と考えられており、大気の不安定な気象状態における都市の高温化が積乱雲の発達を強めることによりおこるが、ときとして1時間に50ミリメートルを超える局地的な豪雨が発生することもある。
[三上岳彦 2015年10月20日]
『尾島俊雄著『ヒートアイランド』(2002・東洋経済新報社)』▽『森山正和編『ヒートアイランドの対策と技術』(2004・学芸出版社)』▽『三上岳彦著『都市型集中豪雨はなぜ起こる?――台風でも前線でもない大雨の正体』(2008・技術評論社)』▽『甲斐憲次編著『二つの温暖化――地球温暖化とヒートアイランド』(2012・成山堂書店)』▽『藤部文昭著『都市の気候変動と異常気象――猛暑と大雨をめぐって』(2012・朝倉書店)』
都市が建設され,そこで人間が生活するようになると,そこの気候が田園や森林であった当時と比べて変化する。そして都市域では郊外や周囲の田舎とは異なった気候が生じる。この都市固有の気候を都市気候と呼ぶ。都市の内外では多くの点で気候が異なる。おもなものは,大気汚染,都市域の高温(都市温度),日射量(紫外線)の減少,風速の減少と都市固有の風系の発生,雲量や霧日数・微雨日数の増加,湿度の減少すなわち都市の空気の乾燥,などが挙げられる。このほか高層ビルの周辺でしばしば発生する強風(ビル風)もある。また都市域の高温に伴って,熱帯夜の増加,真冬日(日最低気温0℃以下の日)や霜日数の減少が見られる。冬に郊外では雪が降っているのに市街地では雨ということも珍しくない。雨量の増加は都市により異なる。
アメリカで行われたMETROMEXとよばれる都市気候のプロジェクト研究に関連して,アメリカの多くの都市で周辺と比べて雨量や雷日数が多いことが報告された。都市内外の気候の差の一つの目安として,アメリカの気候学者ランズバーグLandsbergが欧米の大工業都市で観測した結果をまとめた表をあげる(表)。この値は構造や性格のちがいによって異っているが,一般的にみると都市気候の程度は都市の規模が大きいほど著しくなる。
都市気候は,都市の中で消費される多量の燃料によって発生する熱や大気汚染物質の空気中への排出,建築物や道路の舗装や植生の減少などの地表面の状態の変化が原因となって生じる。都市の中では,ビルや一般家屋の暖房をはじめ,自動車,工場などさまざまな汚染物質や熱の排出源がある。人工熱の発生量は,日本など先進国の大都市の中心部では,冬には日射による受熱量とほぼ匹敵する量に達している。都市の大気汚染は,田園地帯の清浄な空気のところに比べると濃度が1桁,場合によると2桁以上異なる。汚染物質は気体だけでなくたくさんの細塵(エーロゾル)となって大気中に浮遊している。飛行機で遠望すると大都市上空は島状に汚染空気の帽子をかぶっているように見えることが多いので,この状態を汚染の島(ポリューション・アイランド)と呼ぶこともある。そのために空気が濁って視程が悪くなるだけでなく,汚染された空気が温室のガラスの役目をして,いわゆる温室作用をする。また都市の大気中に含まれる煤塵(ばいじん)や硫酸塩などの吸湿性の細塵は,その表面に水蒸気を吸着し,凝結核になりやすいので霧や微雨が多くなる。
都市が市外と比べて高温であることは19世紀から知られているが,近年はヒートアイランドという名で都市の高温現象を指すことが多い。都市内外の温度差は,季節的には冬が大きく夏が小さい。また一日のうちでは夜間が大きく日中が小さい。静穏な晴れた夜には大工業都市の都心部は郊外と比べて4~5℃以上,人口20万程度の中都市は3℃前後,人口2万~3万の小都市では1~2℃高温である。このような都市の高温は人々の生活にも影響を及ぼす。日本の関東地方以南の大都市では夏の熱帯夜の日数が著しく多く,冬は真冬日の日数が著しく少ない。
都市の湿度が低いのは,市街地の中では舗装道路や排水溝が整備されるうえに裸地や緑地の面積が減少して蒸発散が少なく,都市の高温が重なるためである。
都市気候は,都市が建設されそこに人間が住むようになったために変化した気候,つまり人間が変えた気候であるが,温室などの気候と異なり,人間の意志で変えた気候ではない。しかし都市における人間活動が盛んになるにつれて,また都市化が進むにつれて,都市気候はますます明らかになり,人間生活への影響も大きくなってくる。
執筆者:河村 武
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(饒村曜 和歌山気象台長 / 宮澤清治 NHK放送用語委員会専門委員 / 2007年)
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