改訂新版 世界大百科事典 「ビサヤ族」の意味・わかりやすい解説
ビサヤ族 (ビサヤぞく)
Visayan
フィリピンのいわゆるビサヤ地方(ビサヤ諸島)に住む平地キリスト教民の総称。彼らが居住する面積はフィリピン全体の21%を,人口では約40%をも占める大グループである。言語的分類に基づけば,セブ島,ボホール島,ネグロス島東部,レイテ島西部などの中部ビサヤ地域に住むセブアーノ族(人口1026万。1975,以下同),西部ビサヤ地域のとくにネグロス島西・北部,およびパナイ島東部に住むイロンゴ族Ilonggo(ヒリガイノン族Hiligaynonとも呼ばれる。420万),東ビサヤ地域のサマール島およびレイテ島北東部に住むワライワライ族Waray-waray(195万),そのほかパナイ島西部のキナライア族Kinaray-a(アムティコン族Hamtikonとも呼ばれる。35万),パナイ島北部のアクラノン族Aklanon(31万),マスバテ島のマスバテ族Masbate(31万)などに分けられる。
西部ビサヤ地域は19世紀後半から糖業が盛んであり,全国の製糖工場およびその生産量の過半数を占めて一大中心地となっている。とくにネグロス島の西ネグロス州では耕地の40%以上がサトウキビのプランテーションである。中部ビサヤ地域ではトウモロコシが耕地の半分以上に植えられ,二期作あるいは三期作が行われている。東部ビサヤ地域では稲,トウモロコシ,ココヤシ,マニラ麻(アバカ)などを栽培しているが,一般に農業の生産性は低い。とくにサマール島は他の地域と異なって,東海岸を北上する台風の影響をうけやすく,気候が湿潤で,まだ広大な森林が残されている。ビサヤ地域は全般に沿岸漁業が盛んである。地域的,言語的な差異にもかかわらず,ビサヤ族と総称される人々はきわめて均質な文化を共有しており,一般に性向は楽天的で,享楽的な生活を好む傾向が強いとされている。
執筆者:清水 展
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報