改訂新版 世界大百科事典 「ピネロ」の意味・わかりやすい解説
ピネロ
Arthur Wing Pinero
生没年:1855-1934
イギリスの劇作家。正しくはピニアロー。俳優として出発し,1877年に最初の戯曲を発表。判事夫人が夫に対して年齢を偽っていたことから起こる騒動を描いた笑劇《警察裁判所判事》(1885初演)によって地位を確立。以後,同種の作品によって80年代から90年代のイギリス劇壇を代表する笑劇作家となった。他方,まじめな〈思想劇〉をも手がけるようになり,とりわけ《二人目のタンカリー夫人》(1893)は〈過去をもつ女〉を主人公にすえ,在来の類型的な笑劇やメロドラマと異なって,当時としては深刻な題材を扱った問題劇として世に衝撃を与えた。その後の作品には,芝居の世界を扱った喜劇《ウェルズ座のトレローニー》(1898)などがある。ピネロはイギリス近代劇の先駆者として一時は高く評価されたが,現在では,主として一連の笑劇によって記憶されるにとどまっている。1909年,劇壇への貢献によってサーの称号を与えられた。
執筆者:喜志 哲雄
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