日本大百科全書(ニッポニカ) 「ピネロ」の意味・わかりやすい解説
ピネロ
ぴねろ
Sir Arthur Wing Pinero
(1855―1934)
イギリスの劇作家。ロンドン生まれ。19歳で俳優となり、やがて名優ヘンリー・アービングの勧めもあって劇作に転じた。劇壇生活は50年以上、その間にさまざまな傾向の戯曲50余編を残している。『裁判官』(1885)、『女教師』(1886)、『ダンディ・ディック』(1887)など、まず人気を得たのは笑劇(ファルス)風の喜劇で、こういう分野にこそ彼の本領はあるとする意見も強い。だがその名声を確立した作品はイプセンの影響の下に書いたいわゆる問題劇で、『放蕩児(ほうとうじ)』(1889)の成功をきっかけに『タンカレーの後(のち)ぞい』(1893)、『名うてのエブスミス夫人』(1895)などを発表、社会と主人公たちとの葛藤(かっとう)を、観客の興味を巧みにとらえる構成をもった写実的な手法で描いた。この作風を一歩越えたとされる『ウェルズ座のトリローニ』(1898)のようなものもあり、イギリス近代劇への道を開く先駆者の1人となった。
[村上淑郎]