フェルミ粒子(フェルミオン)がフェルミ‐ディラック統計に従うために低温で生じる状態。スピンが半整数(1/2、3/2、……)であるフェルミ粒子はパウリの原理(排他律)により、同じ量子状態(エネルギーやスピンなど)には一つしか存在できない。低温という状態は個々の粒子の運動エネルギーが低い状態である。たとえば低温では、水が氷(固体)の状態になり、熱が加えられ個々の水分子の運動エネルギーが上昇すると水(液体)の状態になり、さらに熱が加わると水蒸気(気体)になる。同様に、フェルミ粒子の量子状態は、低温の場合、最低の量子状態(基底状態)から順番にぎっしり詰まった状態になる。この状態を縮退しているとよぶ。温度が上ると、いちばん上の量子状態のフェルミ粒子がもっと上の量子状態へ遷移する。金属内の自由電子比熱が、古典的に考えるより小さいことは金属内の自由電子が縮退していると考えられる。また恒星内部の中心核周辺の電子などがこのような縮退を起こしていることから縮退圧として核融合反応に寄与していると考えられている。恒星の進化で、縮退圧と重力がつり合うまで収縮した星を縮退星とよび、電子の縮退圧で支えられている星が白色矮星(わいせい)であり、中性子の縮退圧で支えられている星が中性子星である。
[山本将史 2022年7月21日]
金属中の電子を自由にとびまわれる粒子の集団とみなしたとき,ボルツマンの統計力学で記述される古典液体や気体とはまったく異なる性質が見られる。この種の特性は,30atm以下1K以下の液体3Heにも現れる。電子も3Heもフェルミ粒子であって,同一の量子状態を2個以上の粒子が占めることはできない。こうして粒子はエネルギーの低い状態から順に占めていくことになる。実は粒子の間に相互作用があるので,占めるべき状態の内容は詳細な理論によってのみ与え得るものであるが,おおざっぱにいって上に述べたようになる。また熱運動によって上の状況は乱されることになるが,常温における金属では,この熱的乱れはきわめて小さい。量子状態をこのようにフェルミ粒子が占めている状況をフェルミ縮退という。
縮退しているフェルミ気体ないし液体が低温で示す比熱は,絶対温度Tに比例している。一方,古典気体の比熱はTによらず,1mol当り(3/2)Rである(Rは気体定数)。また不純物や表面の存在を無視すると,フェルミ気体ないし液体における粒子の移動度,粒子密度の拡散係数,スピン拡散の係数,熱伝導度などの輸送係数はT→0とともに際限なく大きくなるが,これもフェルミ縮退の効果である。縮退した電子液体の中に正電荷を置くと,静電ポテンシャルが正電荷からの距離が大きくなるにつれ振動しながら減衰していく。これはフリーデル振動と呼ばれているが,電子がフェルミ縮退していない古典液体だとしたらこの振動は見られず,また減衰はもっと急激である。超伝導はフェルミ縮退した電子の間に引力があるときに見られる現象で,古典液体の状態にある電子集団が超伝導を示すことはない。
執筆者:伊豆山 健夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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