改訂新版 世界大百科事典 「フタバガキ」の意味・わかりやすい解説
フタバガキ (双葉柿)
Dipterocarpus
フタバガキ科フタバガキ属Dipterocarpusの樹木。インド,スリランカからフィリピンにいたる東南アジアに約75種あり,ボルネオ,スマトラ,マレー半島およびミンダナオの熱帯降雨林に多い。ほとんどが常緑で,樹高50~60m,直径1~2mに達し,樹幹は通直,円筒状で,枝下が高い。ただしミャンマー~インドシナの数種は乾季に落葉し,樹高も低い。板根(ばんこん)はあまり発達しない。小枝が太く,托葉痕が明りょう。葉は一般に楕円形で,長さ数cmからうちわ大のものまである。革質で厚く,側脈が顕著で,葉縁がやや波うつ。花は黄白色,ときに赤色を帯び,径3~7cmでフタバガキ科としては大きい。果実には2枚の長翼がある。材は心材暗赤褐色,気乾比重0.65~0.85で,ラワンよりは硬く強度が大きく,工場や作業場の床板,機械類の台,トラックの荷台などに用いられる。しかし材面からやにが出やすく,造作材や家具材には適さない。この属の樹木はフィリピンではアピトンapitong,インドネシア,マレーシアではクルインkeruingと総称され,その木材は日本にもラワン・メランチ類に次いで多量に輸入されている。
フタバガキ科は双子葉植物17属約570種の樹木からなり,東南アジアからニューギニアに14属約530種,アフリカに2属約40種,南アメリカ北部に1属1種がある。葉は単葉で互生し,一般に楕円形で全縁。大部分は常緑だが,一部の種類は乾季に落葉する。托葉をもつ。花は両性で,萼片は5枚,花弁は5枚,おしべは10~60本。子房はほぼ上位。果実はどんぐり状の堅果で,2~5枚の長翼をもつ。翼の数は属によってだいたい決まっているが,種によっては属を問わず翼が発達しないことがある。ボルネオを中心とする東南アジアの熱帯降雨林に最も種類が多く,50~60mの高木層をこの科の樹木が優先するいわゆるフタバガキ科林Dipterocarp forestを形成する。しかし,セレベス以東には少ない。アフリカの種類は乾燥したサバンナ林に散在的に生育する高さ数mから十数mの小高木で,分類学的性質も異なり,アジアのものとは別の亜科に置かれる。1977年に発見された南アメリカの種類もアフリカのものに近い。東南アジアのフタバガキ科は木材の利用上きわめて重要で,それにはラワン・メランチ類(Shoreaなど),アピトン・クルイン類(Dipterocarpus),カポール(Dryobalanops)など,日本の木材市場で広く知られるものが含まれる。リュウノウジュ属Dryobalanopsの樹木からはショウノウ(樟脳)に似た成分のリュウノウ(竜脳,ボルネオール)が得られる。幹上に出る樹脂は塗料,ワニス,印刷用インクの原料とされる。フタバガキ科はカキとの類縁関係はないが,フタバガキ属がカキに似た大型の果実に,萼片の生長した2枚の長翼を有しているので,この名がつけられた。
執筆者:緒方 健
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報