18世紀末から19世紀初頭にかけておこったドイツ・ロマン派の芸術理論の基本概念の一つである。フモールとは元来は「液体」を意味するラテン語humorに由来する。それは古代から中世において支配的であった、乾と湿との相関が人間の体調および気質を規定するという生理学的な考え方にあって、とくに「体液」を意味した。16世紀以降、これが英語の「ユーモア」humorとして、とくに「気質」の意味で用いられるようになり、たとえばベン・ジョンソンに代表されるような、人間をその際だって個性的な気質に描く、いわゆる「気質喜劇」the comedy of humoursが登場した。この場合ユーモアとは、「ある特殊な気質がある人物をとりこにし、その結果、この人物の情動、精神、意力をすべて、一方向にのみ向かわせる」(ベン・ジョンソン)ようなものである。こうしてフモールは、文学における喜劇的なものの特定の描写方法という意味をもつに至った。
これが18世紀なかばに、ドイツ語としても用いられるようになったのである。しかしこれを、イロニー(アイロニー)Ironieと並ぶ基本的な芸術的意識態度として取り上げたのは、ドイツ・ロマン派の詩人ジャン・パウルである。彼はその著『美学入門』(1804)のなかで、これを「ロマン的滑稽(こっけい)」であり、「転倒した崇高」であるとしている。それは通常の揶揄(やゆ)のように個々の愚者や愚行をあげつらうのではなく、理念と対比された人類全体、現実の世界全体の愚かしさを際だたせる。それはまた、単に偉大なものをおとしめるパロディーParodieや、卑小なものから出発して偉大なものへと高まるイロニーとは異なって、これら偉大と卑小のいずれも、無限なものの前ではいっさいが等しく無であるとみる。そしてその限りで、個々の人間の愚かさも、愛すべき滑稽として受け入れる。ここではしたがって、滑稽とまじめ、喜劇的なものと崇高、笑うべきものとそれへの愛惜の感傷とが入り混じっている。
フモールは、同時代の哲学者ゾルガーKarl Wilhelm Ferdinand Solger(1780―1819)などによっても、イロニーとの対比で、原理的に論じられている。この場合、イロニーはいっさいの有限な現象が、それがいかに価値のあるものではあっても、理念に照らしてみれば空無にすぎないとして、否定の契機を強調する。これとは逆に、フモールは、いっさいの有限で卑小な現象もそれが同時に理念の現実世界の内なる顕現である限りで、これを価値あるものとして迎え入れる肯定の契機を強調する。また19世紀末から20世紀初めの、フィッシャーやフォルケルトらの美学においても、フモールは、滑稽のもっとも高い境地として取り上げられている。
[西村清和]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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