感染性のある異常型プリオンが脳に凝集して沈着することで脳神経細胞が傷害される、進行性かつ致死性の病気。プリオンとはタンパク質からなる感染性因子だが、プリオン病では正常な細胞性プリオンタンパク質がなんらかの理由で変形した異常プリオンがみられる。本疾患はヒトにも動物にもあるが、ヒトのプリオン病は人口100万人当り年間約1人の割合で発症し、日本では毎年100~200人が発病する。
本疾患は、孤発性・遺伝性・獲得性の三つに大別される。このうち孤発性は、当人のプリオンタンパク遺伝子にも家族歴にも異常がない原因不明のプリオン病であり、「クロイツフェルト・ヤコブ病」がその約8割を占める。遺伝性プリオン病は、プリオンタンパク遺伝子の変異により引き起こされる。獲得性プリオン病には、硬膜移植などによるヒトからヒトへの感染もあれば、「牛海綿状脳症」とよばれる、いわゆる狂牛病に罹患(りかん)した牛肉の摂取による動物からヒトへの感染もある。
代表的なプリオン病である孤発性クロイツフェルト・ヤコブ病では、急速に進行する認知症症状、ふらつき、不規則なふるえなどの特徴的な症状がみられる。症状は発症から急速に進み、3~4か月で無動性無言状態に至り、全身衰弱、呼吸麻痺(まひ)、肺炎などが死因となる。いまのところ根本的な治療法はなく、対症療法が行われる。なおプリオン病は国の指定難病医療費助成制度の対象である。
[朝田 隆 2024年3月19日]
プリオン病とは,プロテアーゼ抵抗性の異常プリオンタンパク質が脳に沈着することにより生ずる疾患の総称であり,ヒトのクールー,クロイツフェルト=ヤコブ病(CJD),ゲルストマン=ストロイスラー=シャインカーGerstmann-Straussler-Scheinker症候群(GSS),羊のスクレイピー,それがミンク,牛,猫に伝播した伝播性ミンク脳症,牛海綿状脳症(狂牛病),猫海綿状脳症などが含まれる。病理所見より伝播性海綿状脳症とも呼ばれる。1982年,カリフォルニア大学のプルシナーStanley B.Prusinerらはスクレイピーの伝播因子を精製してタンパク質性感染粒子proteinaceous infectious particleの意味でプリオンと呼んだ(この業績に対して1997年度ノーベル賞が授与された)。プリオンは,正常で細胞質内に存在するプリオンタンパク質(PrPC)とは異なる異常プリオンタンパク質(PrPSCあるいはPrPres)から構成され,脳に沈着しさまざまな症状を引き起こす。プリオンには核酸は含まれていないと考えられており,核酸により疾患が伝播するというこれまでの感染の概念からは説明できない現象として注目されている。プリオン病にはプリオンを含む病組織により伝播したものを含む孤発性のもののほか,プリオン遺伝子の変異により常染色体性優性遺伝を示すGSS,遺伝性CJD,致死性家族性不眠症なども知られている。
執筆者:水沢 英洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
プリオン病とは、正常型プリオン蛋白が感染型プリオン蛋白に変換することにより、中枢神経系が選択的に冒される病気です。発症の原因や機序(仕組み)が明らかになっておらず、有効な治療法が見つかっていない現時点では、治療できない致死性の病気になっています。
ヒトでは、
また、医原性プリオン病や
さらに、狂牛病のウシからヒトへ伝染した可能性が高いのが変異型クロイツフェルト・ヤコブ病です。その特徴は、発症年齢が若い、生存期間が長い、不安・抑うつ・人格変化・異常行動などの精神症状が現れる、感覚障害の頻度が高いなどです。脳波で周期性同期性放電は認められず、脳のMRIで両側視床枕に対称性の病巣がみられます。小脳失調症状、認知症が進行し、延命処置を施さなければ発症から1年で死亡します。
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
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