改訂新版 世界大百科事典 「ヘゴ」の意味・わかりやすい解説
ヘゴ
Cyathea spinulosa Wall.ex Hook.
湿った密林中に生じる常緑で多年生の木生シダ。幹は高さ数mに達するが,二次肥大生長をする茎はなく,直径2cm程度で直立する茎の周辺を不定根や葉柄基部がおおって直径20cmほどになり,基部では50cmにも達する。葉は長さ2mを超えることがあり,短い葉柄には鱗片の基部が木化した著しいとげがある。葉身は卵状長楕円形,2回羽状分裂し,小羽片は羽状に深裂する。裂片は鋭頭で,辺縁は鋸歯縁となる。葉の軸の裏面には小さな鱗片がつく。包膜は薄く,胞子囊群は若い時には下から完全に包み込んでいるが,成熟した時には裂けて落ちてしまう。伊豆諸島,紀伊半島,四国南端にかけ,また九州では東海岸の宮崎県南部まで,西海岸は五島列島までとびとびに北上している。北限の各地で天然記念物に指定されたが,そのほとんどが絶滅してしまった。これは乱獲のためというより,むしろ立ち上がった茎の周辺に不定根を密生しているために,多湿の密林中でないと生活できないので,環境が変化し,ヘゴが生育できなくなったことが原因であろう。屋久島以南,中国,台湾からヒマラヤにかけてと,インドシナ北部,タイ北部にも分布している。
幹のまわりに密生した不定根をヘゴ板と呼ぶが,水の通りもよく,また水はけもよいので,着生植物の根をつけるのに具合がよい。そのため最近では大量の幹が運び出され,原生林の伐採と相まってヘゴが住みにくくなっている。熱帯には,ホソバホラゴケなどのように,ヘゴの幹の上だけに着生する植物もある。ヘゴ科には800種ほど知られているが,局地的に分化したものが多く,分布の拡散の速度は速くないようである。
執筆者:岩槻 邦男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報