翻訳|downy mildew
卵菌類,ツユカビ科に属する菌の寄生によって起こる植物の病害で,露菌病ともいう。べと病菌はすべてが全寄生菌で,生きた細胞からだけ養分を吸収するので,現在のところ人工培地での培養は不可能である。べと病菌の種類は多く,またべと病にかかる植物の種類も多いが,1種の寄主範囲は狭い。一般に雨が多く,冷温のときに発生が多い。病気にかかった葉を裏返してみると,淡褐色に変わった病斑部に灰色のカビが生えているのを肉眼でも認めることができる。これは気孔から外部に出ている菌の分生子柄(胞子囊柄)と分生子(胞子囊)である。べと病菌の分生子(胞子囊)は遊走子を形成して発芽する場合と,直接発芽管を出して発芽するものとがあるが,機能的にみて前者の場合には胞子囊,後者の場合には分生子である。ただいずれも柄(へい)からは脱落する。適温,水湿を得て侵入に好適の条件が続けば,分生子の発芽,または遊走子の発芽によって,無性的に世代を繰り返すことができる。一般に菌にとって発達の条件に恵まれなくなると(高温,乾燥など),造卵器,造精器をつくって有性的に卵胞子を形成する。卵胞子は厚い膜に囲まれ休眠して土の中で長く残存することができる。
日本全国いたるところのキュウリに発生する。葉に,葉脈に囲まれて角ばった淡褐色の病斑ができ,しだいに広がって葉全体が枯れ上がる。ハウス内では数日のうちに葉が乾枯する。葉の裏には胞子囊が多く形成され,中の遊走子が水中または葉の上の水膜で発芽して新しい侵入を起こす。卵胞子はあまり見ない。キュウリが周年栽培されるような環境では,無性胞子のみで次々に伝染が可能である。密植を避け,排水をよくすると発病は減少する。また株もとに敷わらして雨滴の跳ね上りを防ぐのも効果がある。
殺菌剤ボルドー液の発見の端緒となったといわれる有名な病害。フランスのボルドー地方は著名なブドウの産地であるが,盗難よけの目的で硫酸銅と石灰を混ぜて塗っておいたところ,べと病にかからなかったという。葉に褐色,水浸状の斑点ができて拡大し,葉が枯れ落ちる。
執筆者:寺中 理明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
作物の病気で、鞭毛(べんもう)菌類ツユカビ科に属する糸状菌(カビ)の寄生によっておこる。ツユカビ科Peronosporaceaeのカビは、隔膜のない菌糸体をもち、宿主植物の細胞間隙(かんげき)に侵入、菌糸体から宿主の細胞内に吸器という特別の器官を差し込んで栄養を吸収し、活物寄生性(純寄生性ともいう)で人工培養ができないなどの特徴をもっている。ツユカビ科のカビは、分生子柄の形態、分生胞子の発芽法の違いによって、ペロノスポラPeronospora属、スクレロスポラSclerospora属など8属に分けられているが、いずれも重要な作物のべと病の病原菌となっている。代表的なものに、ウリ類、ネギ類、ダイコン、ハクサイ、ホウレンソウ、ブドウ、バラ、ダイズなどのべと病がある。いずれも主として葉に発生し、黄緑色から黄色の葉脈に限られた角斑(かくはん)状の斑点ができる。湿度が高いときには病斑の裏面に特徴のある白色から灰色のカビ(分生胞子)を一面に形成する。古くなった病斑は褐色になるが、発生がひどいときには、葉全体に病斑ができ早く枯れ上がる。発生は葉に限られていることが多く、茎や果実にはほとんど発生をみないが、ネギ類、ホウレンソウ、ダイズのべと病や東南アジアで重要なトウモロコシべと病のように病原菌が植物の成長(生長)点に侵入するものがある。このような場合は植物体全体が黄緑色となり、生育が遅れ、奇形になり、被害が大きくなる。防除は銅剤、TPN剤、メタラキシル剤などの薬剤を散布して行う。なお、農薬を散布して作物の病気を防ぐ端緒となったボルドー液は、ブドウべと病を防除するために開発されたものである。
[梶原敏宏]
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