ベルイマン(読み)べるいまん(英語表記)Hjalmar Fredrik Elgérus Bergman

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベルイマン」の意味・わかりやすい解説

ベルイマン(Ingmar Bergman)
べるいまん
Ingmar Bergman
(1918―2007)

スウェーデンの映画監督、演出家。7月14日ウプサラに生まれる。父はルーテル派教会の牧師。幼時から演劇に熱中し、とくに『夢幻劇』『令嬢ジュリー』などのストリンドベリに傾倒した。1944年ストックホルム大学を中退、26歳で本格的に映画と演劇の活動を始める。映画は『もだえ』(1944)の脚本執筆、演劇はヘルシングボリ市立劇場での演出であった。映画監督第一作『危機』(1946)は、娘が母の若い愛人と関係するメロドラマである。『愛欲の港』(1948)は、海を捨てた船員と感化院出の娘の出会いをドキュメンタリー的要素を巧みに取り入れて描いた。この作風は後年の作品にも生きている。『不良少女モニカ』(1952)、『道化師の夜』(1953)、『愛のレッスン』(1954)などを経て、『夏の夜は三たび微笑(ほほえ)む』(1955)はボードビル喜劇として成功した。続く『第七の封印』『野いちご』(ともに1957)、『処女の泉』(1960)は、ベルイマンの名を世界的にした傑作である。『第七の封印』は中世の宗教画にヒントを得て描かれた生と死の異教的絵巻であるが、この系譜は後の「神の沈黙三部作」といわれる『鏡の中にある如(ごと)く』(1961)、『冬の光』『沈黙』(ともに1963)に受け継がれ、神を求めて苦悩する人間を描き、神の沈黙に迫る主題で一貫している。形式的にはストリンドベリの戯曲形式の室内劇(カンマルスペル)の名をとり、「カンマルスペル三部作」といわれる。『仮面/ペルソナ』(1966)、『狼(おおかみ)の時刻』(1968)、『受難』(1969)では神の不在は視界外に去り、人間とは何かを究極まで追求した。ほかにドキュメンタリー『フォール島の記録』(1969、1979)がある。

 1970年代に入ると、テレビ作品を本格的に手がけるようになり、舞台演出もストリンドベリ作品に集中度が高くなる。『魔笛』(1975)ではモーツァルト歌劇をテレビ・フィルム化した。『鏡の中の女』(1975)ではリブ・ウルマンLiv Ullmann(1939― )を主役に、『秋のソナタ』(1978)ではイングリッド・バーグマンを主役に、女性のなかに人間の存在証明を描く色彩が濃くなる。離婚を軸に夫婦の愛憎を描いた『ある結婚の風景』(1973)は、初め6話5時間のテレビ映画として製作され、のちに劇場映画となった。自己の体験を極限まで突き放して描いた自伝的作品の『ファニーアレクサンデル』(1982)も、テレビと映画で放映・公開された。『リハーサルの後で』(1984)は舞台演出家を主人公に男女の官能の世界を取り上げた。約20年ぶりの作品となった『サラバンド』(2003)は『ある結婚の風景』の続編にあたり、自らこれを「遺作」とよんだ。ベルイマンの映像世界の魅力は、神と悪魔、愛と憎、生と死の人間的葛藤(かっとう)を演劇的演出とドキュメンタリーの融合体として提示する点にある。

[鳥山 拡]

資料 監督作品一覧

危機 Kris(1946)
われらの恋に雨が降る Det regnar på vår kärlek(1946)
インド行きの船 Skepp till India land(1947)
エヴァ Eva(1948)
闇の中の音楽 Musik i mörker(1948)
愛欲の港 Hamnstad(1948)
牢獄 Fängelse(1949)
渇望 Törst(1949)
歓喜に向って Till glädje(1950)
それはここでは起こらない Sånt händer inte här(1950)
夏の遊び Sommarlek(1951)
シークレット・オブ・ウーマン Kvinnors väntan(1952)
不良少女モニカ Sommaren med Monika(1952)
道化師の夜 Gycklarnas afton(1953)
愛のレッスン En lektion i kärlek(1954)
女たちの夢 Kvinnodröm(1955)
夏の夜は三たび微笑む Sommarnattens leende(1955)
第七の封印 Det Sjunde inseglet(1957)
野いちご Smultronstället(1957)
女はそれを待っている Nära livet(1958)
魔術師 Ansiktet(1958)
処女の泉 Jungfrukällan(1960)
悪魔の眼 Djävulens öga(1960)
鏡の中にある如く Såsom i en spegel(1961)
冬の光 Nattvardsgästerna(1963)
沈黙 Tystnaden(1963)
この女たちのすべてを語らないために För att inte tala om alla dessa kvinnor(1964)
仮面/ペルソナ Persona(1966)
ダニエル Stimulantia - Daniel(1967)
狼の時刻 Vargtimmen(1968)
恥 Skammen(1968)
夜の儀式 Riten(1969)
受難 En passion(1969)
フォール島の記録 Fårö dokumentt(1969)
愛のさすらい Beröringen(1971)
叫びとささやき Viskningar och rop(1972)
ある結婚の風景 Scener ur ett äktenskap(1973)
魔笛 Trollflöjten(1975)
鏡の中の女 Ansikte mot ansikte(1975)
蛇の卵 The Serpent's Egg(1977)
秋のソナタ Höstsonaten(1978)
フォール島の記録1979 Fårö dokumentt 1979(1979)
夢の中の人生 Aus dem Leben der Marionetten(1980)
ファニーとアレクサンデル Fanny och Alexander(1982)
リハーサルの後で Efter repetitionen(1984)
ベルイマンの世界 ドキュメント「ファニーとアレクサンデル」 Dokument Fanny och Alexander(1985)
サラバンド Saraband(2003)

『ジャック・シクリエ著、浅沼圭司訳『ベルイマンの世界』(1968・竹内書店)』『三木宮彦著『ベルイマンを読む』(1986・フィルムアート社)』『ウィリアム・ジョーンズ編、三木宮彦訳『ベルイマンは語る』(1990・青土社)』『小松弘著『Century books 人と思想 166 ベルイマン』(2000・清水書院)』『Egil TornqvistBetween stage and screen : Ingmar Bergman Directs(1995, Amsterdam University Press)』


ベルイマン(Hjalmar Fredrik Elgérus Bergman)
べるいまん
Hjalmar Fredrik Elgérus Bergman
(1883―1931)

スウェーデンの作家。風変わりな人物、みごとな着想、巧妙な話術で人気をかちえた。戯曲『イエスの母マリア』(1905)、歴史小説『サボナローラ』(1909)ののち、『バードチョーピングのマルクレル家の人々』(1919)で作家の地位を確立。戯曲はしばしば上演の機会に恵まれる。エンターテイメント作家の彼に、『死者の手記』(1918)、『道化師ヤック』(1930)のように、まじめな人生探究、告白の書があることは見逃せない。円熟期の大半を海外で過ごしたことと、徹底したハリウッド嫌いは、彼の人生観と性癖の一端を物語る。

[田中三千夫]


ベルイマン(Torbern Olaf Bergman)
べるいまん

ベリマン

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベルイマン」の意味・わかりやすい解説

ベルイマン
Bergman, Ingmar

[生]1918.7.14. ウプサラ
[没]2007.7.30. フォーレ島
スウェーデンの演出家,映画監督。牧師の家に生まれ,ストックホルム高等学校 (大学) を卒業。 1944年にプロの演出家として出発,アウグスト・ストリンドベリの『幽霊ソナタ』を第1作として,モリエールの『ドン・ジュアン』,ヘンリク・J.イプセンの『ペール・ギュント』などの古典や新作を演出。 1963~66年ストックホルムの王立劇場 (ドラマーテン) の総監督として照明などの舞台機構の改革や新人の育成に努めた。一方,1946年に映画監督としてデビュー,その後の作品は国際的に高い評価を受けた。代表作に『第七の封印』 Det Sjunde Inseglet (1957) ,『野いちご』 Smultronstället (1957,ベルリン国際映画祭金熊賞) ,『処女の泉』 Jungfrukällan (1960) ,『鏡の中にある如く』 Saasom i en Spegel (1961) ,『冬の光』 Nattsvardsgästerna (1961) ,『沈黙』 Tystnaden (1963) ,『ファニーとアレクサンデル』 Fanny och Alexander (1982,アカデミー賞外国語映画賞) などがあり,人間の内的世界への鋭い観察を示した。遺作は『サラバンド』 (2003) 。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

マイナ保険証

マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにしたもの。マイナポータルなどで利用登録が必要。令和3年(2021)10月から本格運用開始。マイナンバー保険証。マイナンバーカード健康保険証。...

マイナ保険証の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android