モーツァルトの最後のオペラ(K.620)で,2幕からなる。没年の1791年にウィーンで作曲,初演された。台本は劇場支配人で俳優や歌手もつとめたシカネーダーEmanuel Schikaneder(1751-1812)により,ドイツ語で書かれている。18世紀ドイツの民衆的なオペラ形式であるジングシュピールに属し,その圧倒的成功によって,R.ワーグナーに至るドイツ国民オペラの発展にとって決定的な第一歩となった。物語は,夜の女王から娘のパミーナを救い出すように依頼された主人公のタミーノとこっけいな同伴者パパゲーノが,どんな猛獣をもうっとりと魅了してしまうという魔法の笛を頼りに,太陽の神殿の支配者でパミーナを幽閉しているザラストロの国に乗り込んでいく,というもので,その題材はC.M.ウィーラント編集の童話集のなかの《ルルあるいは魔笛Lulu,oder die Zauberflöte》からとられた。しかし台本には,モーツァルト自身加盟していたフリーメーソンの思想が色濃く反映しており,その思想や儀式についての深い洞察なくしては,このオペラの真の理解は難しい。例えば,劇の進行の途上で起こる夜の女王とザラストロの善悪の立場の逆転は,原作にもみられず,一見して不自然な印象を与えることから,このオペラを作曲中に類似のオペラが上演されたのが原因で筋書を無理に変更したのだ,と信じられてきた。しかし,それは最初からフリーメーソンの思想に基づいて意図された展開であることが,近年の研究で明らかにされている。
執筆者:高野 茂
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
モーツァルトが1791年に作曲した二幕のオペラ(K620)。興行師兼作者・俳優のシカネーダーJohann Emmanuel Schikaneder(1751―1812)の台本による。古代エジプトを舞台に繰り広げられる幻想的な妖精(ようせい)劇だが、その根底には、モーツァルト自身シカネーダーとともに所属していた思想的結社フリーメーソンの道徳観が示されている。森に迷い込んだ異国の王子タミーノは、夜の女王に仕える3人の侍女に助けられ、女王の娘パミーナの絵姿を渡される。パミーナにひと目ぼれしたタミーノは鳥刺しパパゲーノを伴い、僧ザラストロに捕らえられているという彼女を救出に出かける。ザラストロの神殿にたどり着いたタミーノは、この僧が悪者ではないことを知り、パミーナと結ばれるための試練を受ける。みごと試練を克服した2人は、かわいい女房パパゲーナと出会ったパパゲーノらとともに神をたたえる。音楽をつなぐ叙唱のかわりに台詞(せりふ)を用いる、歌劇よりもむしろジングシュピール(歌入り芝居)とよばれるべきこの作品では、しばしば筋の混乱が非難されるが、その象徴的内容と豊かで美しい音楽は、近代ドイツ・オペラの幕開きを告げる最高傑作たるにふさわしい。作曲年の9月30日ウィーン初演、初日と2日目はモーツァルト自身が指揮した。日本初演は1953年(昭和28)グルリット・オペラ協会。
[三宅幸夫]
『A・チャンパイ、D・ホラント編『名作オペラブック5 魔笛』(1986・音楽之友社)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… しかし,18世紀の後半からは,すでに触れたようにドイツのジングシュピールやフランスのオペラ・コミックのように,自国語をテキストとし,しだいに上昇してくる市民階級を基盤とした,新しいタイプの国民的なオペラが勃興してくる。ウィーンの場末の劇場で上演されたモーツァルト晩年の名作《魔笛》は,その一例である。この種のオペラは,素朴なセンチメント,見世物的興味,悪の世界と善の世界の対立といったモティーフを共通の要素として,一方ではケルビーニの《二日間》からベートーベンの《フィデリオ》へつながるサスペンスに満ちた〈救出オペラ〉へと発展し,他方ではウェーバーの《魔弾の射手》に典型的な例を見る国民的なタイプのロマン派オペラへとつながっていった。…
…日本の神道などでも用いられている〈がらがら〉の一種であるシストルムは,イシスの礼拝に用いられた金属楽器の同類である。さらに,モーツァルトの《魔笛》にはフリーメーソンに関連して,古代エジプト以来の〈オカルト〉的伝承の独自な意味づけが見られる。
[古代インドとその流れ]
カースト制の最上位にあるブラーフマナは,古い宗教的・哲学的音楽文化を継承し,発展させてきた。…
…コンスタンツェのバーデンでの療養生活はこのような家計をさらに圧迫することになる。 91年には最後の《ピアノ協奏曲》(第27番K.595)やクラリネット協奏曲(K.622)が書かれたほか,興行師シカネーダーの依頼で,ジングシュピール《魔笛》(K.620)が作曲された。9月末に初演されたこのドイツ語オペラはしだいに成功を収めていくが,それに先立って見知らぬ男から注文を受けたという《レクイエム》(K.626)の作曲やボヘミア王としてのレオポルト2世の戴冠式祝典オペラ《ティート帝の慈悲》(K.621)のプラハ初演などがさしはさまれる。…
…ウィーンを中心に,魔法劇のジングシュピールが流行したのも一つの先駆といえる。モーツァルトの《魔笛》からシューベルトの《魔法のハープ》(1820)へ向かうこの幻想劇の線に沿って,ホフマンの《ウンディーネ》(1816),ウェーバーの《魔弾の射手》(1821)が生まれる。ウェーバーはまた《オベロン》(1826)でも序曲冒頭に〈魔法のホルン〉のモティーフを使って,ロマン的妖精劇を展開した。…
※「魔笛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加