ベータトロン(読み)べーたとろん(英語表記)betatron

翻訳|betatron

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベータトロン」の意味・わかりやすい解説

ベータトロン
べーたとろん
betatron

交流電磁石磁極間の磁束の変化によって発生する電場を用いて、電子加速する装置。交流電磁石の磁極の間に入れられたドーナツ形の加速管の中で、電子は、磁場の強さと電子のエネルギーによって決まる半径rの円周上を回る。交流電流によって磁石が励磁されると、電子の円運動の軌道の内側の全磁束が変化し、電磁誘導によって電子の軌道沿いに電場が発生する。電子はこの電場によって加速されるが、加速による電子のエネルギー上昇と磁場の強くなる割合がつり合って、磁場の変化にもかかわらず、電子が一定の半径の円周上を運動し続けるようにすることが必要である。これはベータトロン条件とよばれる。ベータトロンは、磁極の中央部の磁極間隙(かんげき)を周辺部の間隙より狭めて中央部の磁場を外周部より強め、この条件を満たすように設計されている。この形の加速器は1928年ドイツのビデレーRolf Wideröe(1902―1996)によって提案されたが、加速の安定性などに問題があり、本格的なベータトロンは1940年にアメリカのカーストDonald William Kerst(1911―1993)によって初めて実現された。電子は質量が小さく、比較的低いエネルギーでほとんど光速に達してしまう。光速を超えることはできないので、加速によるエネルギー増加は電子の質量の増加として表れることになる。サイクロトロン加速では、電子の円運動の周期がエネルギー増加とともに遅くなるので同期がとれなくなり、加速できない。電子の加速にはベータトロンが適している。比較的簡単な構造で小型に設計できるので、工業用などのX線源として多く使用されている。

[西村奎吾]

医療としての利用

ベータトロンから発生する放射線はX線と電子線であるが、X線は線量率(単位時間当り照射される放射線量)が低いため、あまり利用されない。電子線は皮膚腫瘍(しゅよう)などの表在腫瘍に対して治療の目的で照射される。主として使われるのは6メガ~40メガ電子ボルト(MeV)の電子線である。十数回に分けて総量50グレイGy)ほどを照射する場合が多い(グレイとは吸収線量の単位である)。電子線はエネルギーに応じて一定の深さまでしか到達しないため、病巣より深い正常の部位は照射されずにすむという利点をもっている。なお、1980年代からは、リニア・アクセレレーター(線形加速器)への置き換えが進み、2000年以降は日本国内ではほとんど用いられていない。

[赤沼篤夫]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベータトロン」の意味・わかりやすい解説

ベータトロン
betatron

電子加速器の1種。磁極の間にドーナツ形の真空容器を入れ,磁場の強さを増すと誘導電場を生じ,それによって電子を加速する。小型の加速器で,電子のエネルギーは数十 MeV である。得られた電子ビームと,電子の制動放射によるγ線およびX線は工業用,医療用に用いられる。

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