ペスカタリアニズム(その他表記)pescatarianism

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ペスカタリアニズム」の意味・わかりやすい解説

ペスカタリアニズム
pescatarianism

陸生動物の肉の摂取を断ち魚介類を消費することを基本とする食の実践。ペスクタリアニズム pescetarianismともいう。また,その実践者をペスカタリアンという。魚をとることは大昔からの人の営みであり,多くの海洋文化,河川文化において魚を中心とした料理の伝統がはぐくまれてきた。長く続く宗教的伝統は多くの場合,牛肉豚肉などの肉類の消費を避ける一方で,魚の摂取は認めている。しかし,理論とその実践としてのペスカタリアニズムは,比較的最近になって発展したものである。ラテン語に由来する piscis(魚)と,1839年から使われ始めた英単語 vegetarian(ベジタリアン菜食主義者)を組み合わせたペスカタリアンの語が初めて登場したのは 1991年であった。
ペスカタリアニズムは,19世紀の倫理的菜食主義から派生したとみることができる。イギリス・ベジタリアン協会 VSUKが,魚肉を食べるが他の肉類は食べない人々に準会員の資格を与えたのは 1884年のことだった。一見矛盾しているようだが,魚や貝には痛みを感じる能力がないと考えれば別であろう。ただし,この問題については科学者や哲学者がいまだ論争を続けている。
ペスカタリアンの食事は主としてベジタリアン食の規定にそったもので,いわゆる地中海食に近い。魚を毎日あるいは週に数回食べ,野菜,豆類,ナッツ穀類,果物をふんだんにとり,ときとしてチーズなど乳製品を少量添える。この食事は飽和脂肪が少なく,抗酸化物質に富み,赤身肉の大量消費が心臓病や大腸癌,その他の生活習慣病と関連づけられているなか,科学的に裏づけられた健康効果があるといえる。だが,陸生動物の摂取がより広範に肥満,II型糖尿病認知症うつ病などにもつながるという見方については十分に立証されてはいない。
魚を基本とした食事の長所として,特に「脂ののった」サケマグロ,あるいはタラの魚肉には健康によいとされるオメガ3脂肪酸が多く含まれていると一般的にいわれる。これらに加え,淡水のマス類などには豊富かつ良質な蛋白質が多く含まれている。また,魚には鉄や亜鉛などの有益なミネラルをはじめ,コリン,ビタミンB12,ビタミンDなどが含まれている。
アメリカ合衆国の食品医薬品局 FDAは,妊娠中の女性に対して胎児の認知機能の発達を促すため,週に 2~3回は魚を食べることを強く奨励している。なお,環境汚染により水銀や他の毒素が食物連鎖に入り込むことがあるため,FDAはサメやメカジキなどのある種の魚は避けるようにと付け加えている。
ペスカタリアニズムは食生活の選択であると同時に倫理的選択でもある。実際にペスカタリアン食を取り入れるにあたっては,地元あるいはできるだけ近い地域で調達した魚を食べるようにと,環境保護活動家や栄養学の専門家は勧めている。また,モントレーベイ水族館のシーフード・ウォッチ・プログラム Seafood Watch programがモニタリングしているような,持続可能な個体群から入手した魚を食べることも奨励している。

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