改訂新版 世界大百科事典 「ボルツマンの原理」の意味・わかりやすい解説
ボルツマンの原理 (ボルツマンのげんり)
Boltzmann's principle
L.ボルツマンによって導かれた統計力学上の原理。孤立系(外界との間にエネルギーや粒子のやりとりのない巨視系)がエネルギーUをもったまま熱平衡状態にあるとき,そのエントロピーSは,この系のエネルギーの値がU以下であるようなミクロ状態の数をW(=W(U))として,
S=klogeW
で与えられるというもの。ここにkはボルツマン定数である。ミクロ状態というとき,量子力学では,孤立系全体がとる一つの量子状態を意味する。古典力学では,系全体の力学状態を表す位相空間を小さな細胞でくまなく分割,それぞれが一つのミクロ状態に対応するものとする。
孤立系のエネルギーがUとU+⊿Uの間にあるようなミクロ状態の数は,状態密度Ω(U)=dW/dUを用いて,Ω(U)・⊿Uと書かれる。ここに⊿Uは熱力学的観測に伴う誤差以下にしておく。統計力学の基本原理である等重確率の原理によれば,孤立系が熱平衡状態にあるときは,Ω(U)・⊿U個のすべてのミクロ状態は等しく実現可能である。多数の実現可能性をもつということは,系がそれだけ乱雑であるということである。それを測る量としては,Ω(U)・⊿Uよりもその対数logeΩ(U)・⊿Uのほうがつごうがよい。それは後者は系のサイズに比例して大きくなるからである(これに対して前者はサイズを2倍にしたとき,1より大きい何かの2乗倍になる)。巨視系では,このlogeΩ(U)・⊿UがlogeWと等しいと考えてよく,したがってボルツマンの原理は,
S=klogeΩ(U)・⊿U
と表すこともできる。エントロピーが系の乱雑さarbitrarinessを測るものであることが,これによって端的に表されている。
→統計力学
執筆者:伊豆山 健夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報