実質的な平等を実現するための暫定的な積極的差別是正措置。社会的・構造的な差別によって、現在不利益を被っている者(女性や人種的なマイノリティなど)に対して、一定の範囲で特別の機会等を提供することにより、実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置である。アファーマティブ・アクションともいい、意味においてポジティブ・アクションと本質的な差異はない。アメリカ、カナダ、オーストラリア等では、アファーマティブ・アクションという語を用い、ヨーロッパ諸国では、ポジティブ・アクションという語を用いている。
ポジティブ・アクションの手法には、(1)クオータ制(一定の人数や割合を一方に割り当てることによって、実質的な機会均等を実現する方式)、(2)プラス・ファクター方式(能力が同等である場合に、一方を優先的に取り扱うことによって実質的な機会均等を実現する方式)、(3)ゴール・アンド・タイムテーブル方式(達成すべき目標と達成までの期間の目安を示して、実質的な機会均等の実現のために努力する方式)などがある。
日本が1985年(昭和60)に批准した女性差別撤廃条約は、第4条1項で男女の事実上の平等を促進することを目的とする暫定的特別措置(ポジティブ・アクション)をとることを、同条約の定義する差別と解してはならないと定めている。同年に制定された男女雇用機会均等法は、ポジティブ・アクションを規定しなかったが、1997年(平成9)に改正、1999年に施行された男女雇用機会均等法は、日本で初めて法律においてポジティブ・アクションを規定した。同法8条は、任意であるが、事業主が「女性に対する」ポジティブ・アクションを行うことを妨げるものではないと規定している。すなわち、職場の男女間格差を是正するために事業主が女性を優遇することは、法令違反にはあたらないとされる。
1999年に公布・施行された男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)第2条2項は、「積極的改善措置」ということばを、機会に関する男女間格差を改善するため必要な範囲内において「男女のいずれか一方に対し、当該機会を積極的に提供することをいう」と定義している。また同法第21条は、内閣府に男女共同参画会議を置くことを定めているが、同会議は、第25条3項により、民間議員のうち男女のいずれか一方の議員の数を少なくとも4割とするクオータ制をとっている。
政府は、社会のあらゆる分野の指導的地位に占める女性の割合を2020年(令和2)までに少なくとも30%程度になるよう期待するという目標をたてて、その施策の一つとしてポジティブ・アクションを推進していた。これは、ゴール・アンド・タイムテーブル方式である。しかし、この目標は達成できず、政府は、2020年代の可能な限り早期に30%程度となるよう目ざして取り組んでいる。
ところで、世界経済フォーラムは、男女平等の度合いを示す「グローバル・ジェンダーギャップ指数」を毎年発表しているが、日本は他の先進諸国と比較して最低位のランクに位置している。その原因は、政治と経済の分野における甚だしい男女格差にある。そこで、経済分野では、女性活躍推進法(平成27年法律第64号。10年の時限立法)が2016年(平成28)4月から施行され、事業主(国、地方公共団体、民間事業主)に対して、女性活躍のための取組みを行う行動計画の策定を義務づけた(2022年4月以降は100人以下の民間事業主は努力義務)。また、政治分野では、2018年5月に、国会や地方議会で女性議員を増やすよう自主的な取組みを政党に求める「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」(候補者男女均等法)が公布・施行されるなど、ポジティブ・アクションに新しい動きがみられる。
[神尾真知子 2023年4月20日]
『神尾真知子「ポジティブ・アクションの現状と課題」(『季刊労働法 204号』pp.144~171・2004・総合労働研究所)』▽『辻村みよ子編『世界のポジティヴ・アクションと男女共同参画』(2004・東北大学出版会)』▽『辻村みよ子著『ポジティヴ・アクション――「法による平等」の技法』(岩波新書)』
… 改正のおもな内容は,募集・採用,配置・昇進の差別が禁止規定となり,調停にあたっての企業側の同意要件の削除,違反した企業の公表,またパートや補助職などを〈女性のみ可〉とする解釈の廃止など,問題とされてきた事項が改善された。さらに,この間,女性たちが裁判で訴えてきたセクシャル・ハラスメントの予防や,男女間格差を積極的に解消するポジティブ・アクションなど,使用者に積極的な対応を求める新しい条項が加わった。なお,時間外労働,深夜労働などを先進国並みに男女共通の規制にしてゆくという雇用平等の重要な課題は,労働基準法改正論議に持ち越された。…
※「ポジティブアクション」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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