日本大百科全書(ニッポニカ) 「マクドゥーガル」の意味・わかりやすい解説
マクドゥーガル
まくどぅーがる
William McDougall
(1871―1938)
イギリス生まれの心理学者。ランカシャー州のオールダム近郊に生まれる。ケンブリッジ、ロンドン、オックスフォードの諸大学に籍を置いたのち、1920年渡米しハーバード大学やデューク大学の教授となったが、彼の基本的な全体的行動に対する目的論的な立場は、アメリカの機械論的行動主義の主流とは相いれず不遇な晩年を送った。その生涯にわたる業績は、生理学的心理学、社会心理学、集団心の問題、目的論的心理学(ホルメー心理学)、異常心理学など広い範囲に及んでいるが、心理学史のうえに大きな影響を残したのは、『社会心理学入門』(1908)と『集団心』(1920)で展開された社会心理学に関する論考である。前者は、世界で初めて社会心理学という題名をつけて書かれた教科書であり、また人間の社会的行動を進化論的な立場から十数個の「本能」とそれと結び付いた「情動」の概念に基づいて説明しようとするもので、それ以前の「人間は理性によって行動し、動物は本能に従って行動する」とみる考え方とは対蹠(たいしょ)的な立場として、当時の社会科学の諸領域に大きな反響を呼び起こした。また後者は、複数の個人によって形成される集団における個人を超越した心(精神)的事実の存在をいかにとらえるかについて、活発な議論を呼び起こした。
[辻 正三]