日本大百科全書(ニッポニカ) 「マリネッティ」の意味・わかりやすい解説
マリネッティ
まりねってぃ
Filippo Tommaso Marinetti
(1876―1944)
イタリアの詩人。未来派の創始者。エジプトのアレクサンドリアに生まれる。パリでバカロレア(大学入学資格)をとり、イタリアのジェノバ大学法学部卒業。パリの「サムディ・ポピュレール」コンクールに入賞、フランス語で詩作した。1905年ミラノで詩誌『ポエジーア』を創刊、「自由詩」を導入。9年2月20日パリの『フィガロ』紙上に未来派宣言を発表(イタリア語版は翌日ミラノで発表)、伝統的価値の粉砕、スピードの美学を提唱した。小説『未来主義者マファルカ』(1910)は女の性を介さずに子供を生む男の物語である。この男性中心の力学賛美は、必然的にファシズムの美学と同調した。12年『未来派文学技術宣言』で旧来の修辞学と訣別(けつべつ)、「自由語」の概念を打ち立てた。ファシズムとの結託、戦争礼賛は表現の自律性を奪ったが、ヨーロッパ前衛運動の先駆者としての彼の思想および文学に、近年、時代の証言としての新たな関心が向けられている。
[望月紀子]