マルクス主義法学(読み)まるくすしゅぎほうがく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マルクス主義法学」の意味・わかりやすい解説

マルクス主義法学
まるくすしゅぎほうがく

マルクス主義(科学的社会主義史的唯物論)の立場から法と国家を解明しようとする学問。それによれば、国家は、非和解的な階級対立に分裂した社会のうえにたつ、外見上超階級的な、しかし基本的に支配階級によって掌握される暴力機構であり、法は支配階級の利益のためのイデオロギー的上部構造である。したがって法は、社会関係に規制作用(「反作用」)を及ぼしながらも、究極的には経済土台によって客観的に制約される。大別して、法を、〔1〕商品交換におけるような、自由で独立な対等当事者間の私的利益(権利)の相互承認関係(権利義務関係)とみるもの(1920年代ソ連パシュカーニスなど)と、〔2〕国家を通じて公的意思として表現され強制的に保障される階級意思たる法規範とみるもの(1930年代以降のソ連の通説)とがある。〔1〕は法が現象する際の姿(形態)に、〔2〕は法の内容ないし本質に着眼している。〔1〕は法が商品交換とともに発生成熟衰退・消滅すると考えるので、資本主義法(ブルジョア法)をもっとも成熟した法と考え、社会主義の法を死滅に向かう過渡期の法(死滅しつつあるブルジョア法)ととらえることになるが、〔2〕は階級社会の各段階に応じて固有の法体系(奴隷所有者法、封建法、ブルジョア法、社会主義法など)が存在すると考える。いずれの場合も、法は歴史的な存在であり、高次共産主義社会においては、国家とともに「死滅」するものと展望される。

[名和田是彦]

『藤田勇著『ソビエト法理論史研究 1917―1938』(1968・岩波書店)』『藤田勇著『法と経済の一般理論』(1974・日本評論社)』『天野和夫・片岡曻・長谷川正安・藤田勇・渡辺洋三編『マルクス主義法学講座』全8巻(1976~80・日本評論社)』『『所有権法の理論』(『川島武宜著作集 第7巻』所収・1981・岩波書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「マルクス主義法学」の意味・わかりやすい解説

マルクス主義法学
マルクスしゅぎほうがく
Marxist jurisprudence

マルクス主義思想を根底に据えて展開される法理論。観念論的に法を研究するブルジョア法学に対し,K.マルクス,F.エンゲルスは唯物弁証法によって生産関係すなわち土台 (下部構造) と,その上に形成される政治的,法的関係およびイデオロギー的所産など (上部構造) とを分け,両者が相互に作用,反作用の関係にあることを認めつつも,究極的には土台によって上部構造が規定されることを明らかにした。さらに,国家や法は社会の一定の歴史的発展段階において初めて成立する歴史的現象であるととらえ,法とは支配階級が被支配階級を強圧的に支配するための手段であり,階級のない共産制社会では,法も国家も死滅すると論じた。日本では,高度に発達した資本主義法 (国家独占資本主義段階の法現象) の構造,特質の研究,ブルジョア的法イデオロギーの批判などが,マルクス主義法学の主たる課題とされている。

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