日本大百科全書(ニッポニカ) 「マンデル酸」の意味・わかりやすい解説
マンデル酸
まんでるさん
mandelic acid
ヒドロキシカルボン酸の一つ。α(アルファ)-ヒドロキシフェニル酢酸、フェニルグリコール酸ともいう。苦扁桃(くへんとう)(ハタンキョウの一種)などに含まれている。
ベンズアルデヒドにシアン化水素を付加させたのち、加水分解すると得られる。無色の板状結晶で、水、エタノール(エチルアルコール)、エーテルに溶ける。遊離酸またはカルシウム塩の形で尿路防腐剤(医薬)として用いる。マンデル酸は不斉(ふせい)炭素原子をもつので、光学異性体をもつ。普通はラセミ体(DL体)として知られているが、ブルシンを用いて光学分割するとL体、l-メントールを用いて光学分割すればD体が得られる。ブルシン(アルカロイドの一種)やl-メントールは対称性のない(キラルな)分子であり、一対の光学異性体の一方(一つのエナンチオ異性体)だけと強く結合するので、これを利用して光学異性体の一方を分け取ることができる。なお、光学分割とは、両方の光学異性体の混合物であるラセミ体から、それぞれの光学異性体(たとえば、D-マンデル酸とL-マンデル酸)を別々に取り出すことをいう。マンデル酸は尿路感染症の抗菌薬剤やフェイスピール(顔の皮膚表面の古い角質の除去剤)などのスキンケア治療に使用されている。
[廣田 穰 2016年2月17日]