ミダス(読み)みだす(英語表記)Midas

翻訳|Midas

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミダス」の意味・わかりやすい解説

ミダス
Midas

(1) アナトリア (小アジア) 中西部フリュギアの古代諸王の名もしくは称号ミダスは前 700年頃デルフォイ神殿で王権を奉献する者として最初に歴史に登場する。のちの文献によれば小アジア北西部のアイオリスの都市キュメーの王アガメムノンの娘と結婚し,遠方の諸民族と交易した。サンガリオス (現サカリア) 川上流地方にある磨崖碑にもミダスの名がある。前 700年以前にアッシリア軍勢がリタウロス地方 (現トルコ中南部) でムシュキ人 (古代フリュギア地方の民に対するアッシリア側からの呼称) のミタの軍勢と戦ったとあるが,おそらく同じミダス王であろう。史実最後のミダス王は,前 700年以後まもなくその王国がキンメリオイ人に滅ぼされたとき自害したとされている。 (2) ギリシア神話に登場するフリュギアの王。泥酔して捕えられ,彼の宮廷に連れて来られたシレノスを丁重にもてなし,ディオニュソスのもとへ送り返したことからディオニュソスに感謝され,なんでも1つだけ望みをかなえてもらえることになり,触れるものがすべて黄金に変る力を授けられることを願った。ところが宮殿に帰ってみると,飲食物まで彼の身体に触れるとたちまち黄金になってしまうので困り果て,ディオニュソスに祈ってこのやっかいな力を自分から取除いてもらったという。その後マルシュアスアポロンが音楽のわざを競い合った場面に居合せたミダスは,アポロンを勝者とするミューズたちの判定に抗議し,マルシュアスの勝利を主張して譲らなかったため,アポロンの怒りを買い,耳をロバの耳に変えられてしまった。そこで彼は,冠で耳を隠し,ただ1人秘密を知る理髪師には,それを口外すれば死刑に処すると申渡したが,この男は黙っているのに耐えられなくなり,地面に穴を掘ってその中に王の秘密を漏した。すると付近に生えたあしが風に揺れるたびに「ミダス王の耳はロバの耳だ」とささやくようになったので,ミダスの秘密は国中に知れ渡ってしまったという。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミダス」の意味・わかりやすい解説

ミダス
みだす
Midas

ギリシア神話でフリギアの王。ゴルディオスとキベレ女神の子。あるときミダスは、ディオニソスから彼の従者シレノスに親切にした褒美として、なんなりと望みをかなえてやるといわれる。彼の手に触れるものすべてが金になって欲しいという望みはかなえられるが、口に運ぶ食物までが金に変わったため空腹に耐えきれず、元に戻してもらう。彼がその力をすすぎ流したパクトロス川は、以来砂金を産するようになったという。また、アポロンと牧神パンの音楽の技競べの際に彼は審判となるが、パンに軍配をあげたため、アポロンによりロバの耳にされてしまう。彼はその耳を深い帽子で隠し、ただ1人秘密を知る床屋には死をもって口外を禁じた。しかし床屋はこの秘密を抑えておくことができず、野原に穴を掘ってその中に打ち明け、土をかぶせておいた。やがて春になり、その場に葦(あし)が生えると、風がそよいで「ミダス王の耳はロバの耳」という噂(うわさ)が葦の茎から広まっていった。

[中務哲郎]

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