改訂新版 世界大百科事典 「みやび」の意味・わかりやすい解説
みやび
〈雅び〉とあてられ,〈ひなび(鄙び)〉に対する語で,広く都(みやこ)風宮廷風の事柄・事物についていう。漢文訓読史では〈風流〉〈閑雅〉などの漢語に〈みやびかなり〉の訓が付けられた。はやく《万葉集》に〈梅の花夢に語らくみやびたる花とあれ思ふ酒に浮かべこそ〉(巻五)があり,また〈遊士とわれは聞けるを屋戸貸さずわれを還せりおその風流士〉(巻一)の〈遊士〉〈風流士〉も〈みやびを〉とよむべきものと推定される。これらはともに奈良の都の文化の生み出したものである。平安時代では,《伊勢物語》初段の〈昔人はかくいちはやきみやびをなんしける〉という一例が有名だが,《竹取物語》《宇津保物語》《落窪物語》などには〈みやび〉の語は見いだせず,《源氏物語》でも〈みやび〉およびその派生語は15例を数えるにすぎない。これはしかし,〈みやび〉への関心が少なかったことを示すものではなく,むしろあらゆる面で〈みやび〉が自明の前提だったからと解される。他方,この語は近世,国学の興隆とともに,それまでとは異なる意味を持つようになる。とくに本居宣長は平安時代の和歌,物語を含む古代文化の中心にあるものを〈みやび〉と呼び,さらにそれを儒教,仏教とは異なる〈神の道〉すなわち神道にも通ずる,日本人の精神の基盤と考えた。
執筆者:今西 祐一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報