ムロジェク(読み)むろじぇく(英語表記)Sławomir Mrożek

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムロジェク」の意味・わかりやすい解説

ムロジェク
むろじぇく
Sławomir Mrożek
(1930―2013)

ポーランド劇作家、小説家、漫画家。現代ポーランド前衛派を代表する一人であった。最初画家を志してクラクフの美術学校に学んだが、20歳ごろから風刺的な短編小説を発表、かたわら風刺漫画も書いて評判になった。この多彩な才は劇作において真価発揮、「ムロジェク劇」と称される独自の世界をつくって世界的に有名になった。手法はグロテスクで、鋭い風刺の矛先は政治へ、また人間関係へと向けられている。1968年の「プラハの春」(チェコにおける民主化運動)は、ソ連・東欧軍のチェコスロバキア侵入(チェコ事件)によって圧殺された。ムロジェクは、このチェコ事件を公然と批判し、同年パリに移り住んだ。1989年からはメキシコに、そして1996年に帰国した。代表作に短編集『象』(1957)、『原子村婚礼』(1959)、『雨』(1962)、戯曲では、三部作『大海原で』『カロル』『ストリップ』(いずれも1961)、『タンゴ』(1964)、『予言者』(1967)、『幸せな出来事』(1973)、『亡命者たち』(1974)、『バツラフ』(1979)、『アンバサダー』(1981)などがある。『絵の中のポーランド』(1957)という漫画集もある。

[吉上昭三・長谷見一雄]

『米川和夫・工藤幸雄訳『タンゴ』(1968・テアトロ)』『吉上昭三・長谷見一雄・沼野充義・西成彦訳『象』(1991・国書刊行会)』『柴田文乃訳『所長――ムロージェク短篇集』『鰐の涙――ムロージェク短篇集』(2001、02・未知谷)』

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改訂新版 世界大百科事典 「ムロジェク」の意味・わかりやすい解説

ムロジェク
Sławomir Mrożek
生没年:1930-

ポーランドの劇作家,小説家。クラクフの美術学校で建築を学び漫画もかく多才ぶりで,1950年の文壇登場もまず風刺作家としてである。初期の作品には政治批判すれすれのユーモア短編が多く,それらは《象》(1957),《アトミツェ市の婚礼》(1959)の2集で鋭さを加えた。人間の卑小尊大,自由と抑圧,信頼と裏切り,時代錯誤と事大主義がかもし出す,グロテスクで不条理な状況は戯曲のテーマともなる。作品には処女作の《警察》(1958)以降,《ストリップ》《大海原で》《カロル》(いずれも1961),《魅惑の夜》(1963)などがあり,その集大成として3幕の傑作《タンゴ》(1964)が結実した。67年以来,パリに住む。チェコ事件に抗議して冷遇を味わうが,《幸せなできごと》(1973),《エミグラント》(1974),《アンバサダー》(1981初演)が故国で歓迎された。戒厳令後に発表された小文では反体制の立場を明確にした。ビトキエビチゴンブロビチの流れをくむ劇作は国際的にも名声が高い。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ムロジェク」の意味・わかりやすい解説

ムロジェク
Mrożek, Sławomir

[生]1930.6.29. ポーランド,ボジェンチン
[没]2013.8.15. フランス,ニース
ポーランドの劇作家,風刺作家。20世紀後半のヨーロッパを代表する風刺作家の一人。まんが家としてデビューしたのち,軽妙な語り口で奇妙な状況を描いたユーモア短編を発表。1950~60年代にポーランド文学界で名声を確立した。機知に富む洗練された文章で現代の不条理を描き,ユーモア諧謔,グロテスクさが入り交じった作品は一見荒唐無稽ながら,さまざまな政治・経済体制に共通する普遍性と愚昧さを明らかにした。代表作の戯曲『タンゴ』Tango(1964)は欧米の数多くの劇場で上演された。1963年に亡命,1978年にフランス国籍を取得した。1989~96年メキシコで暮らしたのち,一時的にポーランドに帰国。2008年に再びフランスに居を定めた。戯曲『警察官』Policja(1958),"Na pełnym morzu"(1961),『赤い夜』Czarowna noc(1963),"Amor"(1979),"Ambasador"(1984),掌編小説集 "Opowiadania"(1973)などがある。(→ポーランド文学

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百科事典マイペディア 「ムロジェク」の意味・わかりやすい解説

ムロジェク

ポーランドの劇作家,小説家。建築を学んだ後,風刺作家・漫画家として活躍。ユーモア短編の形で,官僚主義など大戦後の社会の現実をグロテスクに描く。1958年の処女戯曲《警察》以降,演劇の分野でこの才能を発揮。ビトキエビチゴンブロビチの流れをくむ不条理演劇の第一人者として国際的に名高い。1963年以降,主に国外に住む。短編集《原子村の婚礼》(1959年),戯曲《タンゴ》(1965年)など。

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