イギリスの小説家,詩人。生家は富裕な洋服商であったが,後に破産した。個人教育,ドイツ留学ののち弁護士を目ざしたが,やがてジャーナリズムに転じ,詩集や才気に満ちた空想物語を発表し,小説家ピーコックの娘と結婚した。本格的小説の第1作は《リチャード・フェブレルの試練》(1859)で,自然と女性を敵視する父親に教育された主人公の愛の破綻を,複雑華麗な文体で語っている。この間妻に捨てられ,ソネット風の十六行詩連作《現代の愛》(1862)でみずからの愛とその崩壊の苦悩を追究した。この妻の死後彼は幸福な再婚をし,小説と詩集をつぎつぎに発表してゆく。小説の代表的なものとしては,聡明で情熱的なイタリア系の歌姫を主人公とする《サンドラ・ベローニ》(1864),その続編でイタリア独立運動を背景とする《ビットリア》(1867),詐欺師めいた父親とその息子の関係を,ドイツの森林地方を舞台に物語る《ハリー・リッチモンドの冒険》(1871)のほか,喜劇は軽妙な批判精神によって人間社会を洗練する力であるという《喜劇論》(1877),それに基づく最高傑作《エゴイスト》(1879)などがある。このように彼の題材は多様であるが,その本領は主知的であると同時に抒情的でもある巧緻(こうち)な文体によって展開される社会喜劇であり,とくに聡明で積極的な女性の活躍が特徴である。しかしその高踏的な作風は一般読者にあまり好まれず,ようやく当時の〈新しい女〉を登場させた《クロスウェー荘のダイアナ》(1885)で多くの読者を得た。詩集は8冊,創造の源泉である大地の力を瞑想する思想詩が多い。晩年は文壇の大御所として尊敬された。夏目漱石が《虞美人草》でメレディスの文体を模したことは有名である。
執筆者:海老根 宏
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イギリスの小説家、詩人。ポーツマスで仕立屋の子として生まれる。青年時代ドイツで教育を受け、のち法律家を志したが文学の世界に転向した。小説家ピーコックの娘で年上の未亡人と結婚したが、夫婦仲はうまくいかず、やがて妻は若い男と駆け落ちした。1851年に最初の詩集を、55年には奇想天外な物語『シャグパットの毛剃(けぞ)り』を発表、一部からは注目されたが、一般読者からは認められず、したがって生活は苦しかった。59年、小説『リチャード・フィベレルの試練』で広く認められ、その後『エゴイスト』(1879)、『十字路のダイアナ』(1885)などにより作家の地位は確立、『喜劇論』(1877講演、1897刊)などの評論も書き、また出版社の顧問として無名の新人発掘に貢献するなど、晩年はイギリス文壇の大御所的地位についた。しかし彼の作品は難解であるために、終生多数の読者を得ることはなかった。ところが本国人でも読みにくいメレディスを愛読し、それを完全にわが血肉としたのが夏目漱石(そうせき)で、『虞美人草(ぐびじんそう)』『草枕(くさまくら)』などの作品に、はっきりとその影響を読み取ることができる。
[小池 滋]
『相良徳三訳『喜劇論』(岩波文庫)』
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…ディドロの提唱する〈まじめな喜劇comédie serieuse〉や,催涙喜劇comédie larmoyanteというジャンルがそれで,ドイツでも感傷喜劇が流行した。G.メレディスの《喜劇論On the Idea of Comedy》(1877年講演,97年出版)では,社会的な発展の遅れた国で,よい喜劇は生まれない例としてドイツを挙げているが,共感できる主人公の登場するレッシングの《ミンナ・フォン・バルンヘルム》のような喜劇は,モリエール流の喜劇とはジャンルの異なる温かい情をもったドイツ的喜劇とみるべきだろう。 17世紀のモリエールの影響はデンマークのJ.L.ホルベアなどに認められ,イタリアでは,C.ゴルドーニが,即興喜劇の伝統に固執するC.ゴッツィなどの妨害に出会いながら,文学的な性格喜劇を残した。…
…しかしロンドンの生活を嫌ったために,建築界での出世をあきらめて故郷に帰り,文学を一生の仕事にしようと決意した。68年匿名で《貧民と貴婦人》という長編小説を書き,ロンドンの出版社に送ったところ,当時文壇で重きをなしていたG.メレディスの目にとまった。メレディスはこの小説があまりに過激な社会思想に色づけられ,出版社から排斥されるから,もっと筋立てのおもしろさをねらった作品を書いたほうがよい,とハーディに忠告した。…
※「メレディス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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