ヤエヤマヤシ(読み)やえやまやし(その他表記)satakentia palm

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヤエヤマヤシ」の意味・わかりやすい解説

ヤエヤマヤシ
やえやまやし
satakentia palm
[学] Satakentia liukiuensis H.E.Moore,Jr.
Gulubia liukiuensis Hatsushima

ヤシ科(APG分類:ヤシ科)ヤエヤマヤシ属、1属1種のヤシ。台風圏のヤシで、強靭(きょうじん)性に富み、60メートル以上の強風にもよく耐える。属名のサタケンチャでよばれることが多い。サタケンチャは命名者である佐竹利彦にちなみ、ヤエヤマヤシは原産地である八重山(やえやま)列島にちなむ。幹は単一で直立し、高さ15~20メートル、径25~30センチメートル、根元は肥大する。幹肌は淡灰褐色で、浅い環紋(葉痕(ようこん))が残る。葉は全裂羽状葉で披針(ひしん)形、長さ4~5メートル、濃い鮮緑色光沢がある。小葉羽片は93対あり、長さ24センチメートル、幅3.5センチメートル。葉柄は光沢のある緑色できわめて短く、長さ8~10センチメートル、末端から6番目の小葉は長さ38センチメートル、中央部の小葉は長さ55~70センチメートル、幅3~4センチメートル。小葉は整然と並び、先端が鋭くとがり垂下し、優美である。葉鞘(ようしょう)に特徴があり、比較的短く光沢があり、下部は暗紫色、上部になるにつれて緑色に変わる。この色彩の変化は大形のヤシ類では例のない美しさを呈する。このため今日では、各国の植物園に導入され、観賞に供されている。肉穂花序は雌雄同株の単性花で数本発生し、強靭で幹から水平に発生する。包葉は先が鋭くとがった紡錘形で長さ1メートル。花柄は長さ60センチメートル、直線状の枝柄を放射状に分岐し箒(ほうき)に似ている。枝柄の分岐部近くに、雌花1個の両側に1個ずつの雄花がつく3個1組の集合花が多数生じ、先の方に向かって多数の雄花がつく。花は黄白色。雄花は長さ5ミリメートル、花弁は先がとがったスコップ状で長さ4ミリメートル。雄しべは6本で長さ4ミリメートル、葯(やく)は麦粒状で長さ3ミリメートル。不稔(ふねん)の雌しべが大きく長さ3.2ミリメートル、下部の径2ミリメートル、柱頭は丘状で花柱より大径である。雌花は長さ5~6ミリメートル、花弁は長さ2.5ミリメートル、外曲舌状の3枚の柱頭が上端に露出する。基部に6個の無葯の雄しべがある。果実は緑色でのちに黒色になり、わずかに先がとがった長楕円(だえん)形で長さ1.4~1.5センチメートル、径0.6センチメートル、やや曲がっている。種子は褐色で、ササゲ様の模様がある。胚乳(はいにゅう)は半透明の乳色で、胚は底部にある。栽培は鉢植え、露地植えともに適する。栽培温度は7℃以上。

[佐竹利彦 2019年5月21日]

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改訂新版 世界大百科事典 「ヤエヤマヤシ」の意味・わかりやすい解説

ヤエヤマヤシ
Satakentia liukiuensis(Hatsushima) H.E.Moore

琉球諸島に自生する1属1種のヤシ科の高木で,高さ15~20m,直径20~30cmに達する。幹は平滑で環紋がある。葉は羽状全裂で,長さ約5m,裂片は多数,革質で,線状剣形,長さ60~70cm,先端は浅く2裂し,両面は緑色,第2次脈は各側2~3対。肉穂花序は最下葉鞘(ようしよう)の基部から出て,やや下垂し,掌状に分岐して開出し,長さ約1m。花は雌雄同株,雌花は花序の下部に,雄花は上方につく。果実は果序の軸に水平につき長楕円形,赤く熟し,長さ約1.3cm,中果皮は繊維質。琉球の石垣島,西表島のみに産す。属名はヤシの研究家の佐竹利彦を記念したものである。沖縄の方言はウラダヤシ(オランダヤシの転訛か)。観賞用として庭園に植えることがある。

 小笠原産のノヤシClinostigma savoryanum(Becc.)H.E.Moore et Fosbergは,本種にもっとも近いが,ノヤシの果実は扁円形で,花柱は側方についているので区別できる。
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