よばい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「よばい」の意味・わかりやすい解説

よばい

婚姻当初の一形態。のちには強姦(ごうかん)まがいの行為を含めていう。語義は「呼び続ける」こと。霊魂信仰では、相手の名を呼び続けると、言霊(ことだま)の力によって霊魂を招き寄せることができると考え、そういう呪術(じゅじゅつ)的な行為から出た語。古代には婚、娉、結婚などの文字をあて、男が求婚し、また女のもとに通(かよ)って行くことであった。当時の女性生家(せいか)との結び付きが強く、結婚してもなお生家にとどまっていたから、夫は毎夜、妻のもとに通っていた。このような婚姻形態を婿入り婚、招婿(しょうせい)婚、通い婚、よばい婚、母処婚(ぼしょこん)などという。ただし女性が一生を生家で過ごしたという確証は得られず、子供ができたときとか、夫の親が隠退した時期を見計らって、妻が夫の家に入るのが一般であった。中世以降、武家を中心に男性支配が強まり、祭祀(さいし)や労働における女性の地位が低下するに伴い、結婚と同時に嫁が婿方に身柄を移す「嫁入り婚」が広く行われるようになった。村の男女が成人して、よばいなどの交際を重ねるうち、自然に自他ともに許す一組の夫婦ができあがっていたものが、世の中が厳密になり、極度に処女性が重んじられ、練習期間というべきものが認められなくなった。そういう時点で、相手の女性の同意さえ確認せず、深夜にしのび込むものだけをよばいとよぶことになり、「夜這(ば)い」などの文字をあてるようになった。なお、女が男のもとに通う「女のよばい」も、わずかながらあった。

[井之口章次]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「よばい」の意味・わかりやすい解説

よばい

呼ぶから出た語で,古代では,求婚する女のもとへ通う妻問いのことをいったが,中世以降,嫁入り婚が普及してからは,「夜這い」の字があてられ,猥雑不倫な行為を呼ぶようになった。しかしなお一部の地方では,婚礼後の一時期,通い婚の習俗を残すところがあり,そのような地方では,今日でも通い婚による正規の婚姻行為をヨバイと呼んでいる (→妻問婚 , 婿入り婚 ) 。

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百科事典マイペディア 「よばい」の意味・わかりやすい解説

よばい

男が求婚のため女のもとに通うこと。元来は妻訪(つまどい)婚が一般的であった時代の言葉で,結婚の意味にも使われた。嫁入婚の普及に伴い不道徳視されるようになり,本来の意義も見失われたが,農村では明治・大正期まで,そのなごりをとどめた。

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改訂新版 世界大百科事典 「よばい」の意味・わかりやすい解説

よばい

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世界大百科事典(旧版)内のよばいの言及

【婚姻】より

…婚姻とは,社会的に承認された夫と妻の結合であり,この〈夫〉と〈妻〉の資格,役割については,それぞれの社会において独自の意味づけがなされている。この意味づけはときとしてひじょうにかけ離れているので,上記の広い定義にもう少し具体性をもたせようとすると,その定義からはずれてしまう事例が出てくる。たとえば,〈一対の男女の継続的な性的結合を基礎とした社会的経済的結合で,その間に生まれた子どもが嫡出子として認められる関係〉と定義すると,日本をはじめ多くの社会に通用する普遍性をもつように見えるが,人類社会全体を通して見ると,この定義に当てはまらない例がいろいろと出てくる。…

【性】より

…〈性〉ということばにはさまざまな意味がある。まず〈性〉は生物の多くの種にみられる二つの表現形態の区別で,ヒトであれば男性―女性,動植物であれば雄性(雄)―雌性(雌)の区別を意味する。次に,この二つの性が存在するところから生じる行動,現象も一般に〈性〉といわれる。 ヒトの場合,性は遺伝子によって決定され,発生の過程で内性器,外性器の性分化が起こる。これを一次性徴という。次いで思春期にいたると,男子では筋骨の発達やひげが生えるというぐあいに,一見して〈男らしい〉〈女らしい〉体つきとなる。…

【妻訪い】より

…伊豆諸島ではこの引移りは,夫方の世帯譲渡がおこなわれるのと同時期で,この際夫の両親は隠居した。〈女のよばい〉といわれて,妻が夫方婚舎に一時的に通う地域もあった。 他方,妻訪いは求婚の意味ももち,これと同意の語によばいがある。…

※「よばい」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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