改訂新版 世界大百科事典 「ニガヨモギ」の意味・わかりやすい解説
ニガヨモギ
wormwood
Artemisia absinthium L.
ヨーロッパ原産のキク科の多年草。根茎は木質,茎は枝分れが多く,高さ40~60cm。葉は2~3回羽状に深裂し,柔らかい絹毛におおわれて,表は緑白色,裏は白色。花期は7~9月,円錐状に多数の頭花をつける。頭花には多数の小花がある。内側にある小花は両性花で,周囲にある小花は雌性花である。瘦果(そうか)は倒卵形で冠毛を欠く。全草に強い芳香がある。全草を健胃薬として用いる。また,ローマ時代から婦人病などの民間薬として栽培された。枝葉に香料を加え,蒸留してアルコールに溶解させたものがアブサンである。苦味配糖体であるアブシンチンabsinthinを含み,大量に摂取すると神経が麻痺するという。苦みがあるのでニガヨモギの和名がついた。
執筆者:小山 博滋
伝説
ニガヨモギの属名は小アジアのカリアの王妃アルテミシアにちなむ。夫のマウソロス王の死を悼み,〈世界の七不思議〉の一つに数えられる大霊廟(マウソレウム)を建設した彼女は,亡夫の骨灰をニガヨモギの飲物に混ぜて飲んだという。この苦みは,昔エデンの園から追放されたヘビの這(は)い跡から生じた草であることに由来するという。英名もまた〈ヘビグサ〉(worm=ヘビ)を意味し,魔女の秘薬の材料とも信じられた。花言葉はアブサンがabsenceに通じるというので〈不在〉,またアルテミシアの故事により〈離別と恋の苦しみ〉。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報