スウェーデンの作家。ウプサラ大学卒業後,パリに遊び,フランス近代美術の影響の下に処女詩集《モティーフ》(1914)を発表。第1次大戦後は夢幻劇風の一幕物を書き,1920-30年の10年間は,南フランス滞在,オリエント旅行で過ごす。その間《永遠の微笑》(1920),《不吉な物語》(1924),自伝的小説《真実の客となる》(1925)などの中・短編を発表。短編《刑吏》(1933)はナチス批判の作品。第2次大戦後発表の《バラバ》(1950)は1951年度ノーベル文学賞受賞の対象となった。以後,中編《巫女》(1956),《アハスウェルスの死》(1960),《海上巡礼》(1962),《聖地》(1964)と,初期キリスト教信仰ゆかりの地と思われる所を舞台に,神と人間の二元的対立の克服をテーマに作品は展開するが,探求の結果見いだしたかと思われるものが実は空(くう)であり,さらに永遠の巡礼を続けるという形をとっている。これは《永遠の微笑》以来彼が一貫してとっている姿勢であり,彼が問題の提起はするが,つねに回答は与えない問いかけの作家と評されるゆえんであろう。
執筆者:田中 三千夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
スウェーデンの作家。1912年ウプサラ大学卒業後、パリに遊びフランス近代美術の影響を受け、処女詩集『モチーフ』(1914)を発表。第一次世界大戦後は夢幻的一幕物戯曲を書く。1920~1930年は南フランス滞在、オリエント旅行で過ごし、『永遠の微笑』(1920)、『不吉な物語』(1924)、自伝小説『真実の客となる』(1925)などの中・短編で神と人間のテーマを追究する。詩集『営火のもとに』(1932)、ナチス批判の短編『刑吏』(1933)、第二次世界大戦後の『バラバ』(1950)などの著作活動により1951年ノーベル文学賞を受賞する。その後は、詩集『夜の国』(1953)、中編『巫女(みこ)』(1956)、『アハスベルスの死』(1960)、『海上巡礼』(1962)、『聖地』(1964)と続く。これらの作品は、善と悪、神性と人性の二元的対立を一貫して追究。その結果手にする真実は実は空(くう)であり、さらに永遠の巡礼が続くという構成をとる。『永遠の微笑』以来変わらぬ彼の作家的姿勢で、つねに問題の提起に終わる。「問いかけの作家」と評されるゆえんであろう。作品の舞台設定は、初期キリスト教信仰への深い関心を示す。なお彼には、北欧作家に伝統的な長編の大作はない。
[田中三千夫]
『尾崎義訳『バラバ』(岩波文庫)』
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