改訂新版 世界大百科事典 「リーゼガング現象」の意味・わかりやすい解説
リーゼガング現象 (リーゼガングげんしょう)
1896年ドイツのリーゼガングR.E.Liesegang(1869-1947)は,生体組織試料を染色しているとき,少量の重クロム酸カリウムを含むゼラチンのシート上に濃い硝酸銀溶液を落とすと,硝酸銀が周囲に拡散し,重クロム酸銀が同心円状に沈殿することを見いだした。このような周期的沈殿現象をリーゼガング現象と呼ぶ。また,このような沈殿層が環状を呈するので,一般にリーゼガング環Liesegang ringとも呼ばれている。この現象は,適当な条件が満たされれば,かなりいろいろな物質の組合せで観察され,たとえばゼラチン中で周期沈殿をつくるものには,クロム酸バリウム,炭酸鉛,炭酸銀,リン酸鉛,リン酸コバルト,ヨウ素酸銀,およびすべての不溶性水銀塩などがある。ヨウ素酸銀などは条件により水中でも周期的沈殿をつくる。蒸気相においても認められ,たとえば三酸化硫黄と水蒸気の反応で硫酸の周期的な凝結リングを生じ,また長い管の両端から塩化水素とアンモニアのガスを通じると,塩化アンモニウムの白色沈殿が周期的にできる。リーゼガング現象が報告されたとき,F.W.オストワルトは過飽和領域が周期的に現れるという説を提出したが,実験事実を十分に説明することができないまま現在に至っている。リーゼガング現象は自然界でもしばしばみられ,たとえば斜長石やメノウにみられる縞模様がそれである。
執筆者:妹尾 学
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報