ルオー(読み)るおー(英語表記)Georges Rouault

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ルオー」の意味・わかりやすい解説

ルオー
るおー
Georges Rouault
(1871―1958)

フランスの画家、版画家。ピカソ、マチスたちとともに20世紀を代表する画家の1人。5月27日、パリに家具職人の息子として生まれる。1885年からステンドグラス修復の工房に徒弟修業し、かたわら装飾美術学校の夜間コースに学ぶ。90年、絵画に専念することを決意し、エコール・デ・ボーザールのエリ・ドローネーの教室に学び、92年よりドローネーの後任ギュスターブ・モローの教えを受ける。モローの推挙でローマ賞を志すが二度にわたり失敗、学校をやめたあとリギュジェの修道院に入り、ここでユイスマンスたちと知り合い、内面的、宗教的な感情を養う。98年のモロー没後に旧宅に設置されたモロー美術館の館長を務め、1903年のサロン・ドートンヌの創立に参加。このころからルオーは、修業時代の基本的にはアカデミックであった主題と画法を捨てる。この、第一次世界大戦前後に至る初期には、尊敬する師モローの作品の影響下に水彩を主とし、幅の広い動的な筆触、青を基調とする色彩に託して、社会的な不正義に対する怒りと悲しみを、道化、娼婦(しょうふ)、裁判官、郊外の貧しい人々などの主題で描く。『鏡の前の娼婦』(1906・パリ国立近代美術館)などがその代表作。それらは筆触の強さ、色彩の表現性で、同時期のフォービスム、あるいはピカソの「青の時代」と類縁性をもつが、独自な精神性を備え、フランスにおける表現主義の表れとみることができる。

 1917年、彼は画商ボラールと専属契約を結び、以後、『ミセレーレ』(1917~27制作、1948刊)などの連作版画集に制作の大半の時間を費やしている。油彩を中心とするルオーの中期の制作もこのころに始まる。版画技法の習熟から得た広い筆触による隈(くま)取り、透明感のある緑・青・褐色を厚塗りする激しいマチエールなどの手法が用いられ、引き続き娼婦、道化、裁判官などの主題が描かれるが、初期における罪、絶望の表現とは異なり、静かな内面的世界が描かれる。とくに、30年代以降、キリスト教的なテーマが多くなり、それらが、しばしば道化、裁判官、郊外などのテーマと合体し、救済恩寵(おんちょう)の世界へと転換してゆき、中世、ルネサンス以降、真の意味での宗教画家としてのルオーの世界が成立する。代表作は『ベロニカ』(1945・パリ国立近代美術館)など。45年のフランス東部のアッシー教会のためのステンドグラスなども注目される。

 1952年ごろからの晩年の作品は、主題も多様化し、色彩も赤、黄色などが多くなり、マチエールの深さと相まって輝くようなきらめきを生んでいる。ボラールの死後、訴訟を起こして未完の旧作を取り戻し、48年にはそのうち315点を焼くという、ルオーの完全主義を物語る事件もあった。58年2月13日パリの自邸に没し、国葬が行われた。

 連作版画集『流星のサーカス』(1938)、『受難』(1939)などのほか、リトグラフ挿絵入りの『私的な思い出』(1925)、『独言』(1944)の著作もある。死後未完の作品約200点がパリ国立近代美術館に納められた。

[中山公男]

『P・クールティヨン解説、中山公男訳『ルオー』(1976・美術出版社)』『B・ドリヴァル著、高階秀爾訳『ルオー』(1961・美術出版社)』『柳宗玄解説『現代世界美術全集12 ルオー』(1972・集英社)』『イザベル・ルオー目録作成、柳宗玄他訳『ルオー全版画』(1979・岩波書店)』『高田博厚・森有正著『ルオー』(1976・筑摩書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ルオー」の意味・わかりやすい解説

ルオー
Rouault, Georges

[生]1871.5.27. パリ
[没]1958.2.13. パリ
フランスの画家。家具職人の子として生れる。 1885~90年ステンドグラス職人の徒弟となり,シャルトル大聖堂のステンドグラス修復に従事。 91年エコール・デ・ボザールに入学し,G.モローに師事。 98年モローの死後,モロー美術館の館長をつとめた。初期にはモロー風の宗教画を描き,やがて青みがかった暗い色彩と強い線による水彩画を多く描き,独自の表現主義的様式を確立。 95年頃にローマ・カトリックに改宗した。 1903年頃から道化,娼婦などを画題としたが,次第にキリストが中心的な主題となる。 18年頃からは版画,油彩を多く制作,35~48年には光沢のある厚塗りの画面と,黒の輪郭による朱紅,紺,緑などの強い色彩が特徴となった。 48年にアッシー聖堂のステンドグラスを制作。主要作品『徒弟工』 (1925,パリ国立近代美術館) ,『聖顔』 (33,同) ,『道化』 (48,ボストン美術館) 。

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