ロシア料理(読み)ろしありょうり

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ロシア料理」の意味・わかりやすい解説

ロシア料理
ろしありょうり

ロシア料理とは、9世紀のロシア建国から帝政ロシア時代、1917年の革命後のソ連邦時代を経て現在まで、ロシア人の間ではぐくまれてきた伝統の料理である。ロシア人がもっとも多く住むのはモスクワなどの大都市、酷寒シベリアから温暖なボルガ川流域地帯までを包含するロシア連邦であり、この地域の料理を主体とするが、近隣の旧ソ連諸国、すなわちウクライナベラルーシモルドババルト三国コーカサスや中央アジアの国々の個性ある独特の民族料理を含めて考えることもある。

 伝統のロシア料理は昔の皇帝、貴族ら特権階級の絢爛(けんらん)豪華なものから、庶民の質素で単調なものまであるが、なんといってもロシア農民の日常の食べ物が中心である。帝政のころ、外国との文化交流によりフランス料理などの流行したこともあったが、ついに変わらなかったのは、ロシア人のロシア料理への愛着心であった。そこによそ者の踏み込む余地はなく、革命でさえ料理を変えることはついにできなかった。昔の食物はカーシャソバの粥(かゆ))、シチー(キャベツ入りスープ)、クワース(ライ麦製飲料)、ライ麦粉の黒パンに尽きる。チェーホフの『曠野(こうや)』では、昼食に大鍋(なべ)の中に川エビ、小魚を放り込んで黍(きび)、塩を加えたカーシャが登場する。

 ロシア料理は、実質的、栄養的、素朴さが特徴。味は酸味があり淡白で、日本人にも親しめる。材料の野菜、果物は北方に乏しく、南方は豊富。南方を除いては生野菜は少なく、キャベツ、タマネギ、ジャガイモ、ビート、キュウリの貯蔵(酢漬け、塩漬け)に比重が重い。肉は羊肉は南方、ほかはウシ、ブタ、ウマ、トナカイ、シカ、野鳥、ニワトリなど。トマトとスメタナサワークリーム)で煮たベフ(ビーフ)・ストロガノフキエフキーウ)風鶏肉のカツレツジョージアグルジア)のシャシリク(羊肉の串(くし)焼き)などの名物料理がある。魚はニシン、タラ、チョウザメをよく使い、酢漬け、塩漬け、薫製にすることが多い。乳製品は豊富で良質、スメタナ、トボーログ(カテージチーズ)、ケフィールサワーミルク)などは料理にも利用される。ザクースカ(前菜)にキャビアは有名で、シチー、ボルシチ、サリャンカなどのスープ、ピロシキそのほか無数の粉料理は、まさにそれがロシア料理といいたい。風土上、キノコの多種多様さはみごとで、その料理も多い。

 甘味ではワレーニエ(果物のシロップ煮)、キセーリ(果物などのババロア)、ペチェーニエ(焼き菓子)などが知られ、飲物ではウォツカ(火酒)が有名である。ウォツカは無色透明の蒸留酒で、その味とロシア料理とは実にぴったりの感がある。ジョージア、アルメニア、カフカスでは、ワインやコニャックをつくっている。

[長屋美代・小阪ひろみ]

『『朝日百科 世界の食べもの4 ヨーロッパ中・北・東部・ロシア・ギリシア』(1984・朝日新聞社)』『原卓也監修『世界の歴史と文化 ロシア』(1994・新潮社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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