脂肪油とくにヒマシ油などを硫酸処理して得る界面活性剤の一種。硫酸化油sulfonated oilともいう。ロート油の製造は,ヒマシ油,オリーブ油,綿実油,ナタネ油,ぬか油またはオレイン酸などを原料とし,通常35℃以下で濃硫酸を反応させる。反応後に水,熱湯で洗浄し,アルカリ液で中和して得る。おもな原料であるヒマシ油の場合,反応は原料成分のリシノール酸のOH基が硫酸と反応して硫酸エステルとなり,親水性基部分を構成して,油自体の親油性基部分と相まって,界面活性能を発現する(図)。しかしオリーブ油等不飽和結合をもつ油の場合は不飽和二重結合に対する硫酸エステル化を起こすわけで,その他,加水分解によるカルボン酸の生成などもともない,ロート油自体はこのような混合物組成をもつものである。硫酸エステル化は通常18~30%程度で,高度硫酸化油の場合は90%に達する。ロート油は黄色または褐色の油で,原料油,硫酸エステル化の程度により異なるが,水に対し溶解,乳化し,高い油の可溶化能を示す。湿潤,起泡,洗浄能も高硫酸化にしたがって増大し,それ自体も水溶性となる。ロート油は農業用乳化剤,鉱工業用に用いられ,とくに古来アリザニン等の染色助剤として,また繊維工業の柔軟潤滑剤,製革加脂剤として用いられ,界面活性剤の発展上歴史的意義もきわめて深いものである。
執筆者:内田 安三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
硫酸化油ともいう.ひまし油,オリブ油,綿実油,大豆油などの脂肪油に35 ℃ 以下で濃硫酸を作用させ,未反応の硫酸を洗浄除去後,生成物をアルカリで中和して得られる.黄色ないし褐色の粘ちゅうな液体.水によく溶解し,界面活性が高い.せっけんに比べて耐酸性,耐硬水性,浸透性,乳化性がすぐれているが,洗浄力は劣る.安価なアニオン界面活性剤として,一般の乳化剤,染色助剤,切削油添加剤,製革用剤などとして用いられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
19世紀の中ごろに、赤色の天然染料であったトルコ赤(アリザリン)によるまだら染めを防ぎ、均一な染色を得るために用いられた薬剤。トルコ赤油ともいうが、初めはオリーブ油を硫酸で処理したものが用いられたので硫酸化油sulfonated oilともいう。1875年ころに、ひまし油の硫酸化油が現れてから主流はそれにかわった。1928年以降に新しいいくつかの合成界面活性剤が登場するまでは、せっけんを除いて唯一の界面活性剤として、長い間繊維工業で用いられてきた。現在でも酸性染料の染色助剤としてのほか、農薬の乳化剤・分散剤あるいは植物を用いた皮革のなめし助剤に用いられている。
[早野茂夫]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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