アセトン(読み)あせとん(その他表記)acetone

翻訳|acetone

デジタル大辞泉 「アセトン」の意味・読み・例文・類語

アセトン(acetone)

特有のにおいのある無色・揮発性の液体。引火性がある。工業的にはプロピレンを酸化するなどして作る。溶剤に用い、またメタクリル樹脂医薬品などの原料。化学式CH3COCH3

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精選版 日本国語大辞典 「アセトン」の意味・読み・例文・類語

アセトン

  1. 〘 名詞 〙 ( [英語] acetone ) 脂肪族飽和ケトンの一つ。化学式 (CH3)2CO 無色でエーテル臭のある揮発性液体。引火しやすく爆発性が高い。樹脂、脂肪、染料などの溶剤として多量に用いられる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アセトン」の意味・わかりやすい解説

アセトン
あせとん
acetone

もっとも簡単で、またもっとも重要なケトン。ジメチルケトン、プロパノンともいう。木酢(もくさく)液の中に含まれるほか、生体内にもケトン体(アセトン体)として、血液や尿の中に微量含まれている。

 1910年代までは酢酸カルシウムの乾留によって製造していたが、その後炭水化物の発酵によってブチルアルコールとアセトンとを同時に得るアセトンブタノール発酵が開発された。現在ではのように、石油化学の産物であるプロピレンを部分酸化するヘキスト‐ワッカー法(赤色で示した経路)、ベンゼンとプロピレンを原料としてフェノールとアセトンを同時に合成するクメン法(青色で示した経路)により工業生産されている。無色で揮発性の液体で、水、エタノールエチルアルコール)、エーテルには任意の割合で混じり合う。エーテルに似たにおいをもち、麻酔作用がある。還元性がないのでフェーリング液などとは反応しない。ケテンを経て無水酢酸を合成する原料となるほか、メタクリル酸メチルビスフェノールAアスコルビン酸(ビタミンC)などの合成原料となる。

 溶剤としての用途も広く、合成樹脂、ゴム、油脂、塗料の溶剤となるほか、アセチルセルロースニトロセルロースなどの溶剤としても使われる。マニキュア除光液としても使われている。引火性が強いうえ、蒸気が空気と混じると爆発しやすい(爆発範囲2.55~12.8容量%)ので、取り扱うときには火気に注意しなければならない。

[廣田 穰]



アセトン(データノート)
あせとんでーたのーと

アセトン
  CH3COCH3
 分子式  C3H6O
 分子量  58.08
 融点   -94.8℃
 沸点   56.3℃
 比重   0.7908(測定温度20℃)
 屈折率  (n)1.3590
 引火点  -18℃
 溶解度  ∞(水と任意の割合で混合)

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改訂新版 世界大百科事典 「アセトン」の意味・わかりやすい解説

アセトン
acetone

最も簡単な,そして量的にも最も重要な脂肪族ケトン。ジメチルケトンに相当する化合物で,化学式CH3-CO-CH3。融点-94.82℃,沸点56.3℃の無色の特異臭のある液体で,水やほとんどの有機溶媒とあらゆる割合で混合する。工業的には,プロピレンを塩化パラジウムを含む触媒の存在下で空気(酸素)酸化するワッカーWacker法,また酸化亜鉛などを触媒とするイソプロピルアルコールの脱水素法によって製造する。

ラッカー,染料,油脂など種々の製品の溶剤として使用され,またメチルイソブチルケトン,メチルイソブチルカルビノール,メタクリル酸メチルなど,多くの工業中間製品の製造原料となる。

 塩基触媒によるアルドール縮合により,ジアセトンアルコールが生成する。

シアン化水素と塩基触媒のもとに反応し,アセトンシアンヒドリンが生成する。これはメタクリル酸合成に利用される。

人体内では血液中,尿中に存在する。脂肪酸のβ酸化の最終産物であるアセチルCoAが生産過剰になると,アセト酢酸の生産が増え,アセト酢酸は分解してアセトンと3-ヒドロキシ酢酸になる。これら異常代謝生成物は糖尿病患者の尿中にかなりの量が検出される。
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化学辞典 第2版 「アセトン」の解説

アセトン
アセトン
acetone

C3H6O(58.08).CH3COCH3.2-プロパノン(2-propanone),ジメチルケトン(dimethyl ketone)ともいう.かつては炭水化物のアセトン-ブタノール発酵,イソプロピルアルコールの脱水素などで製造されたが,現在ではヘキスト-ワッカー法により,プロペンを塩化パラジウム(Ⅱ)と塩化銅(Ⅱ)の水溶液を触媒として,空気または酸素で部分酸化して合成される.また,クメン法によるフェノールの合成において副生し,工業製品としてはこのクメン法によるものが大部分を占める.エーテル臭をもつ無色の液体.融点-94.6 ℃,沸点56.5 ℃.0.7898.1.3591.水,エタノール,エーテルなどに易溶.高温で熱分解するとケテンとメタンが生成する.工業的にアセチルセルロース,ニトロセルロース,アセチレンなどの溶剤として大量に使用され,そのほか,有機溶剤として多方面の用途がある.また,メタクリル酸エステルの合成原料として重要で,ケテンを経て無水酢酸の製造にも利用される.[CAS 67-64-1]

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百科事典マイペディア 「アセトン」の意味・わかりやすい解説

アセトン

化学式はCH3COCH3。特異臭のある無色の液体。融点−94.82℃,沸点56.5℃。最も簡単なケトン。水,有機溶媒に易溶。引火性。溶剤として多量に使用される。アセトンブタノール発酵,プロピレンの酸化,クメンからの合成など各種の製法がある。
→関連項目固形アルコール石炭化学防臭剤

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アセトン」の意味・わかりやすい解説

アセトン
acetone

化学式 CH3COCH3 。ジメチルケトンのこと。特有な臭いをもち,揮発性,引火性のある液体で,沸点 56.5℃。水,エチルアルコール,エーテルなどとよく混り,多くの有機化合物をよく溶かすので溶剤として,またアセチレン貯蔵用容器の溶媒として需要が多い。メタアクリル酸,ヨードホルム,クロロホルム,スルホナール,無水酢酸などの原料となる。ヒトの血液や尿中にも微量含まれる。 20世紀初頭からデンプンのアセトンブタノール発酵によって合成されていたが,現在,工業的にはプロピレンとベンゼンから得られるクメンを空気酸化してペルオキシドとし,酸で分解してフェノールとアセトンを製造している (クメン法) 。

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栄養・生化学辞典 「アセトン」の解説

アセトン

 C3H6O (mw58.08).CH3-CO-CH3.水,有機溶媒いずれにもよく混合する溶媒.絶食や進行した糖尿病患者で,生理的に体内で生成して呼気や尿に排泄されることもある.ケトン体の一つだが生理的意義は小さい.

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世界大百科事典(旧版)内のアセトンの言及

【アセチレン】より

…また圧縮すると分解,爆発を起こしやすい。そこで,アセチレンをボンベ(高圧容器)に充てんするときは,ボンベ中にケイ藻土やアスベスト(石綿)を詰め,アセトンをしみこませたうえ,アセチレンを10~15気圧まで充てんする。アセトンはアセチレンのよい溶媒であり,15℃ではアセトン1容にアセチレン25容が溶解する。…

【クメン】より

…クメンは,重要な有機工業化学製品の一つであり,ベンゼンとプロピレンから,酸触媒(液相法では硫酸あるいは塩化アルミニウム,気相法ではリン酸‐担体)を用いて製造される。クメンを原料として,いわゆるクメン法により,フェノール(石炭酸))とアセトンが製造される。この方法は,クメンを酸素で酸化しクメンヒドロペルオキシドとし,これを酸触媒で分解するもので,得られる生成物のフェノールは数工程を経てナイロン6の原料に,またアセトンも重要な合成樹脂製造原料であるメタクリル酸メチルに変換される。…

【ケトン】より

…ケトンはカルボニル基の極性によって,分子量が類似した炭化水素より沸点が高くなる。またカルボニル基の酸素原子は水と水素結合を形成するため親水性を示し,低分子量のケトン(たとえばアセトン)は水によく溶ける。代表的なケトンには表に示すようなものがあるが,このほか天然にも香料として知られるムスコン,ジャスモンや,ステロイドホルモンであるエストロン,アンドロステロンがあり,また抗生物質,テルペンなどにも多く存在する。…

※「アセトン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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