「考古学」を意味するフランス語。この語を、フランスの哲学者ミシェル・フーコーは、とくに1960年代における自らの歴史的研究の方法を指し示すために使用した。彼の定義するアルケオロジーとは、実際に語られたことから出発してそのレベルに身をとどめつつ、諸々の学問や科学の成立を可能にした歴史的諸条件を描き出そうとする研究のことである。
哲学的思考の領域においてアルケオロジーという語を使用したのは、フーコーが初めてではない。すでにカントやフッサールは、彼らの哲学のなかにこの語を導入しようと試みていた。しかし、彼らがアルケオロジーをもっぱら「アルケーarchē」の学、すなわち、起源や原理の探求としてとらえていたのに対し、フーコーはそれを、「アルシーブarchive」の学、すなわち、実際に語られた言説の総体を、徹底して言説そのもののレベルにおいて分析するものとしてとらえ直そうとする。『知の考古学』L'archéologie du savoir(1969)によれば、このようなものとしてのアルケオロジーは、とりわけ、主体の至上権のもとに出来事の分散を回収しようとする歴史研究のあり方に対立させられる。つまりそこには、さまざまな言説を、言説の外にあって言説を可能にするものとしての主体の創設的作用に結びつけようとする人間学的歴史の拒絶が含意されている。そしてこの拒絶には、まさしくアルケオロジー的探求そのものによって根拠が与えられることになる。というのも、精神医学、医学、生物学、経済学、文献学等の歴史を分析しつつ、近代における人間学的思考の成立の歴史的諸条件とそこに潜む公準とを明らかにしたのは、アルケオロジーの功績にほかならないからである。自らが発見したものによって自らの方法的地盤が強化されるという、アルケオロジーのこうした特徴は、フーコーの歴史研究がそもそも「現在」の問題への関心によって動機づけられている、ということと関連している。すなわち、彼にとって、新たな研究方法の確立と、その方法の適用による実際の歴史研究とは、いずれも、何がわれわれの現在を依然として包囲しており、何がそこからすでに遠ざかりつつあるのかということを見極めるためのものであるということだ。アルケオロジーは、われわれ自身を診断し、われわれ自身の連続性や同一性を問題化する。それは、われわれが身を置いている思考の地平からの離脱のための努力、別の仕方で思考するための努力なのである。
[慎改康之]
『ミシェル・フーコー著、渡辺一民・佐々木明訳『言葉と物』(1974・新潮社)』▽『ミシェル・フーコー著、中村雄二郎訳『知の考古学』改訳新版(1981・河出書房新社)』▽『ミシェル・フーコー著、蓮實重彦・渡辺守章監修、小林康夫・石田英敬ほか訳『ミシェル・フーコー思考集成』全10巻(1998~2002・筑摩書房)』
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