アルコール依存症(読み)あるこーるいぞんしょう(英語表記)alcohol addiction

  • (こころの病気)
  • Alcoholism
  • アルコールいそんしょう
  • アルコールいそんしょう ‥イソンシャウ
  • アルコールいそんしょう〔イソンシヤウ〕

知恵蔵の解説

飲酒によって一時的に、不安や緊張感、気分の落ち込みなどが緩和されるが、次第に飲まずにはいられない精神状態になり、同じような酔いを得るための飲酒量が増大していく(耐性)。身に付いてしまった大量頻繁な飲酒を中止せざるを得なくなると、指が震えたり、不安や焦燥感に駆られたりし、ついには意識障害や幻覚が現れるようになる(離脱症状)。依存症者は肝臓の障害をはじめ、糖尿病、高血圧など身体上のリスクが高まり、酩酊による外傷、家庭生活の破綻、仕事上のトラブルなど、問題の範囲は極めて広い。配偶者や子供に長期にわたる精神的問題を引き起こすことも少なくない(アダルト・チルドレン)。治療は断酒以外になく、「適度な飲酒」はあり得ない。本人が問題を受け入れることが治療の第一歩で、長期のリハビリテーションを行う必要がある。離脱症状は薬物による治療が可能であり、治療のきっかけにもなる。飲酒行動のコントロールに終始すると家族も悪循環に陥ってしまうことが多いので、飲酒問題の責任を本人に直視させる環境づくりのためにも、グループによる支えが意味を持つ。自助グループへの参加、飲酒に関連する場所・人・状況を避けることが大切で、飲酒後に不快感を起こさせる薬剤も併用できる。

(田中信市 東京国際大学教授 / 2007年)

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

自分で飲酒管理できなくなり、飲んではいけない時や場所でも飲んで問題を起こす病気。厚生労働省研究班の推定では、予備軍を含め全国で約440万人いる。手足の震えや幻視などの身体的症状、現実から逃避し忠告を聞かない精神的症状、社会や家族から孤立する社会的症状が現れる。完全には治癒できず、再び酒を口にすると元に戻ってしまうため再発防止策は断酒しかない。

(2010-09-06 朝日新聞 朝刊 名古屋 1地方)

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栄養・生化学辞典の解説

 長期にわたってアルコールを摂取したために起こる健康の障害,精神的障害,社会的な不適合などの総称.多くの場合アルコールを断つことによって禁断症状を生じる.

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大辞林 第三版の解説

酒類を長期にわたって習慣的に飲用しているうちに、やめようとしてもやめられなくなる状態。胃腸炎症状、顔面や鼻の毛細血管の拡張、精神的・道徳的退廃などを生じ、禁酒すると禁断症状を起こす。慢性アルコール中毒。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

アルコール飲料(酒類)の飲み方を自分でコントロールできなくなる状態。より正確には以下のように定義される。アルコール飲料を常用している結果、慢性的におこる精神的、身体的変化のうち、病的な飲酒パターン、または飲酒による社会的あるいは職業的機能の障害のいずれかが該当すること(これをアルコール乱用という)。これに加え、飲酒量の増大を伴うか、飲酒の減量または中止に引き続き離脱(禁断症状)が生じる場合、アルコール依存症と診断される。病的な飲酒パターンとは、強迫的に酒を求め、節酒、断酒ができないこと、連続飲酒の発作、飲酒サイクルの繰り返し、酩酊(めいてい)中の記憶欠損、飲酒による身体疾患の悪化を知りながら飲酒し続けることなどをさす。社会的あるいは職業的機能障害とは、酔って暴力を振るう、仕事の停滞をきたす欠勤、交通事故をおこす、家族や友人と争うことにより受ける拒絶、経済的困窮、飲酒に関係した刑事問題、失職などをいう。離脱症状とは、飲酒の減量または中止後数日以内におこる精神的変化と身体症状で、精神的変化としては不安、抑うつ気分、いらいら、不快感または脱力感があり、身体症状としては吐き気、起立性低血圧などのどれかの症状が現れること、および両手、舌、眼瞼(がんけん)に振戦(しんせん)(ふるえ)が出現するもので、いずれも飲酒すれば軽減ないしは消失する。
 アルコール依存症の病名は比較的最近になって用いられ始めたもので、従来は慢性アルコール中毒の用語が使われていた。すなわち、飲酒を継続しているうちに中止できなくなる状態は習慣性とか嗜癖(しへき)とよばれ、それに神経系の障害や肝臓などの臓器障害が加わるものを慢性アルコール中毒とよんでいた。これは1849年スウェーデンのフスMagnus Huss(1807―1890)が命名した。しかし、中毒とは薬物などが直接に身体機能を冒す急性症状の場合に使われる用語であり、飲酒を続けるうちにおこる行動上の変化は、中毒の概念とは異なると考えられるようになった。欧米では、その行動上の変化に注目してアルコーリズムalcoholismという用語が一般的に使われていた。だが、この概念も狭義と広義の両用に使われて用語上の混乱が生じたため、1974年に世界保健機関(WHO)の薬物依存委員会によって、アルコールを含む習慣性、嗜癖性を生ずる薬物を一括して依存性薬物とし、それらによっておこる精神的、身体的変化に伴う障害を「薬物依存」として統一した。したがって薬物依存は、精神依存(薬物を求める強迫的欲求)と身体依存(薬物がなければ身体が正常に機能せず、薬物の中断で離脱症状が出現する)および耐性の3徴候が生じるものとした。この委員会の見解を受けて、アメリカ精神医学会が精神障害に関する診断統計マニュアル第3版(DSM-)にアルコール依存の診断基準を作成したが、それが冒頭に掲げた定義である。
 なお、2013年に公表された第5版(DSM-5)では、従来のアルコール依存(=依存症)と、依存症水準未満の飲酒様態であるが、医学的もしくは社会的問題を呈する逸脱的飲酒様態であるアルコール乱用という区別はなくなり、アルコール使用障害という大きな診断カテゴリーに一本化されている。その主要な理由としては、依存と乱用の区別がしばしば困難であること、また、依存症水準以下の飲酒でも治療を要するものが少なくないことなどがあげられている。
 アルコール依存症では、アルコールからの離脱時に激しい精神身体症状を示すことがある。飲酒の減量または中止後1週間以内に出現するせん妄(もう)(意識状態の変化)と自律神経機能の亢進(こうしん)(頻脈や発汗など)を示す場合をアルコール離脱せん妄(従来の診断名は振戦せん妄)という。活発な幻視を伴うが、おもに虫やネズミなどの小動物の幻視が多い。また、離脱期の通常48時間以内に鮮明な幻聴を体験することがある。複数の人がしゃべっているような幻聴が多く、1~2週間で消失する。しかし、なかには数か月も続くことがあり、これをアルコール幻覚症という。長期かつ大量の飲酒を続けると記銘力や記憶力の著しい低下をきたすことがあり、ウェルニッケ‐コルサコフWernick-Korsakoff病とよばれる亜急性脳炎に引き続く場合がある。ウェルニッケ‐コルサコフ病の回復期に著しい健忘症候を呈するものをアルコール健忘障害(単にコルサコフ病ともいう)とよび、本病からさらに進行して認知症になるものをアルコール性認知症とよぶ。
 なお、アルコール依存症の大部分が臓器障害として肝機能障害、胃腸障害、心障害、膵(すい)障害を伴う。肝炎からアルコール脂肪肝、肝硬変へと進む例がもっとも多い。
 治療としては原則として断酒であるが、断酒に強く抵抗する者に対して、戦略的に節酒を当座の目標としつつ、治療関係の継続を優先する場合もある。また、かつてアルコール依存症の治療は入院治療を原則としていたが、近年では外来治療でも離脱をコントロールして断酒へと導入できる事例が多くなっていることから、まずは外来治療を試み、治療経過をみながら入院の要否を検討することが多くなっている。補助的な治療として薬物療法(抗酒剤や抗渇望薬)を用いることもあるが、長期的な断酒を達成するうえでもっとも有効なのは、断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス)といった自助グループに継続的に参加することである。[加藤伸勝・松本俊彦]

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六訂版 家庭医学大全科の解説

どんな病気か

 アルコール依存症は、薬物依存症のひとつです。ほかの薬物依存症と同じようにアルコール依存症も「脳の病」であり「行動の病」です。

 薬物依存症の主な症状は、「強化された薬物探索・摂取行動」と規定され、脳に行動の記憶として刻印され、完治することがない病気です。長期にわたる断薬(アルコール依存症では断酒)をしても、少量の再摂取から短期間に断薬(断酒)直前の摂取行動にもどります。ほかの慢性疾患と同様に再燃(再発)しやすい病気です。

 アルコール依存症は普遍的な病気ですが、誤解の多い病気でもあります。アル中(慢性アルコール中毒)と同義ではありません。アル中は社会的、道徳的、倫理的なラベリング(レッテル貼りの言葉)であり、医学用語からは排除されています。

原因は何か

 依存性薬物であるアルコールを含んだ嗜好品(しこうひん)、すなわちアルコール飲料を繰り返し摂取すると、脳内へのアルコールの強化作用(その薬物の再摂取欲求を引き起こす作用、アルコールでは飲酒欲求)に対する感受性が増大します。

 強化作用の機序(仕組み)はすべての薬物依存症に共通で、脳内の側坐核(そくざかく)から神経伝達物質のドーパミンが放出されることによります。アルコールは、GABA(ガバ)­A神経を介して側坐核からドーパミンを放出させます。

 この強化作用に対する感受性の増大が、飲酒行動を強化し、飲酒パターンが病的となって探索行動(何とかしてお酒を飲むための行動)を引き起こします。感受性の増大する速度は、強化作用に対する感受性のほかに、飲酒量、飲酒頻度などで変わってきます。

 強化作用に対する感受性が高いと、飲酒量や飲酒頻度が高くなくても短期間で依存症に至ります。一方、感受性が低くても、飲酒量や飲酒頻度が高ければ短期間で依存症に至ります。すなわち、アルコールの強化作用に対する感受性と飲酒の反復とから、アルコール依存症が形づくられます。したがって、原因に性格や人格をあげるのは科学的ではありません。

症状の現れ方

 主な症状は病的な飲酒行動です。その始まりはゆるやかで気づきにくいという特徴があります。病的な飲酒行動は、摂取行動と探索行動の変化として現れます。

 摂取行動は、日常行動の合間合間に飲酒を繰り返したり、飲んでは眠り、さめては飲むを繰り返したりの病的飲酒パターンになります。病的飲酒パターンの持続時間は、初期は短期間で徐々に延長します(表3)。

 病的飲酒パターンと表裏して飲酒渇望(かつぼう)が探索行動に現れ、徐々に高度になります。飲酒を取り(つくろ)ううそ、酒代の借金、隠れ飲み、酒瓶隠し、隠し金、酒屋や自販機めぐり、飲酒を妨害する人を責めたり脅したりなど、多種多様です。

 アルコール依存症の進行につれて日常行動の規範が飲酒に移り、飲酒中心性と呼ばれる状況になります。たとえば、どこへ行くにも飲酒の可否で優先するような事態です。

●退薬症状

 飲酒の反復のあと、飲酒中断や飲酒間隔の延長、飲酒量の減少で現れる症状です。

 不眠・悪夢・血圧上昇・頻脈(ひんみゃく)動悸(どうき)・吐き気・嘔吐・頭痛・胃痛・発汗・寝汗などの自律神経症状、手指振戦(しんせん)・筋肉の硬直やけいれん発作などの神経症状、幻視(げんし)幻聴(げんちょう)・振戦せん妄などの精神症状が現れます。

 退薬症状がおさまると、怒りっぽくなる・刺激に敏感になる・焦燥・抑うつなど情動の不安定な遷延性(せんえんせい)退薬徴候と呼ばれる状態が続きます。

●合併症

 アルコールに起因する合併症には、胃炎、膵炎(すいえん)、膵石、肝炎、肝硬変(かんこうへん)心筋症などの内科疾患、末梢神経炎、小脳変性症、ウェルニッケ・コルサコフ症候群、前頭葉(ぜんとうよう)機能障害、アルコール痴呆(ちほう)などの神経・精神疾患があります。

検査と診断

 検査法には、飲酒パターン分類(表3)や表4に示すCAGEテストなど各種のスクリーニングテストがあり、それらでおおむね診断可能です。

 アルコール依存症は、ほかの薬物依存症と併せて精神作用物質依存症や物質依存症と呼ばれ、共通の診断基準があります。WHO(世界保健機関)のICD­10の精神作用物質依存症診断基準(表5)や、米国精神医学会のDSM­Ⅳの物質依存症診断基準です。これらの診断基準を用いてアルコール依存症の診断をします。

 なお、酔って興奮するのは「酩酊(めいてい)の異常」に分類され、アルコール依存症とは区別されます。

治療の方法

 現在のところ、断酒以外の治療選択肢はありません。

 米国立アルコール研究所が、患者さんの特性に合った治療法を検証するProject MATCHという全米規模の研究を行いました。これは、全米9施設の患者さん1726人に、治療者25人が共通の手順で12週間治療し、その後1年間の飲酒日数と飲酒量から治療効果を判定したものです。

 検討された治療法は、12ステップ強化療法、認知行動療法、動機づけ補強療法の3つでした。その結果、精神病性障害がなく最初から外来治療の患者さんには、12ステップ強化療法が認知行動療法よりも飲酒日数が明らかに少なかった以外に、患者さんの特性と治療法の有意な組み合わせはありませんでした。

 以上のように、今のところとくに優れた治療法はありません。断酒会やAA(アルコール・アノニムス=アルコール匿名会(とくめいかい))などの自助会も治療の場です。医療機関としては、アルコール専門クリニック、精神病院のアルコール専門病棟、一般精神病院などがあります。

 日本のアルコール専門病棟の大半では、断酒の動機づけを入院条件にしており、開放病棟で2~3カ月の入院期間中に、患者自治会の主導で断酒会やAAへとつなげています。最近は認知行動療法を行うところが増えています。なかには、内観療法を行うところもあります。動機づけが困難で、3カ月以上の長期入院が必要な人の専門病棟はあまりありません。

 治療に使われる主な薬剤は以下のとおりです。

抗酒剤(こうしゅざい)

 シアナマイドとジサルフィラムの2つが用いられますが、飲酒渇望を抑制する効果はありません。両剤はアルコール中間代謝産物のアセトアルデヒドの代謝酵素を阻害して、飲酒時の血中アセトアルデヒド濃度を上昇させ、飲めない体質の人と同じ生体反応を起こすことでアルコールを遠ざけるようにする薬剤です。

●渇望抑制剤

 日本では未承認薬のアカンプロセートやナルトレキソンが欧米で用いられています。飲酒渇望には万全ではありませんが、支持的精神療法と組み合わせて高い断酒効果が得られています。

病気に気づいたらどうする

 患者さん本人に治療意欲があれば、まず地域の断酒会やAAへ参加しましょう。治療意欲がないか、気づかない場合は、問題に気づいた人が地域の保健所、断酒会、AA、アルコール専門クリニックや専門病棟のある精神病院などの窓口へ相談してください。

 合併症が重い(当然アルコール依存症も重い)のに治療する意欲がない場合、本人の意思を尊重すると事態は深刻になるので、強制的な入院治療も必要です。その場合、利用できる医療資源には地域差があるので、相談機関の指導にしたがいましょう(表6)。

小宮山 徳太郎


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

世界大百科事典内のアルコール依存症の言及

【アルコール中毒】より

…手の震えや不眠症などがそれである。アルコール依存は,精神依存,身体依存,耐性の三つの要素が強さの差こそあれ,いずれも存在する状態であり,この状態にある人は〈アルコール依存症〉と診断される。アルコール乱用,アルコール依存のいずれの状態においても,大なり小なり神経症候や臓器障害を伴う。…

【断酒会】より

…アルコール依存から脱却するために依存者たちが断酒を誓い,再飲酒しないように励ましあう会。アルコール依存症は,酒を断つために入院治療を行っても,退院して間もなく再飲酒してしまう例がきわめて多い。断酒するためには強い意志と己れにかつ努力がいる。…

※「アルコール依存症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

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