改訂新版 世界大百科事典 「アレインメント」の意味・わかりやすい解説
アレインメント
arraignment
起訴(罪状)認否手続と訳され,英米法系の諸国において,公訴提起後,被告人を公判廷に出頭させて,起訴事実に対する被告人の答弁を求める手続をいう。被告人による有罪(および不抗争)の答弁が記録されたときは,公判における事実審理を行わずに有罪が決定され,直ちに刑の量定手続に入る。アメリカでは起訴事件全体の90%,重罪事件の70~80%が本制度で処理されている。その数からもわかるように,訴訟の経済・効率化および手続の迅速化など,刑事司法上果たしている役割は大きい。もっとも,有罪の答弁に際して行われる検察官と被告人(および弁護人)との取引については,答弁は任意か,その内容は正確(真実)かを中心とする批判も強く,その点に関する連邦地方裁判所刑事訴訟規則の逐次の改正にもかかわらず,今なお取引の活用をめぐる賛否の議論はあとをたたない。日本でも,第2次大戦後の刑事訴訟法全面改正作業において,その採否が相当に検討されたが,結局,採用は見送られただけでなく,明文上〈起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合〉も補強証拠が必要であるとして制度自体が否定された(刑事訴訟法319条2項,3項)。アレインメント制度は,自白を唯一の証拠として有罪としたり刑罰を科してはならないとする憲法38条3項に違反する疑いがあり,また一種の当事者処分主義を認めるもので刑事訴訟の本質にそぐわないというのがその根拠である。1953年の刑事訴訟法一部改正においても議論されたが,簡易公判手続が設けられたにとどまる。しかし,憲法38条3項は被告人が争っているときの規定であるから,アレインメント制度は憲法に違反せず,むしろ迅速な裁判を定めた憲法37条1項の趣旨や事件の重点的処理などから制度の新設が望まれるとする積極論も有力である。
執筆者:三井 誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報