翻訳|Jericho
パレスティナのヨルダン川西岸地区にある町。人口約1万6000。エリコともいい,アラビア語でエリーハErīḥa。パレスティナ最古の町として知られるが,現在のイェリコは,エルサレム・アンマン道路に沿ってエルサレムの東北東約22km,死海の北方約8kmに位置する。その西方約1.6kmのところに先史時代以来の定住がみられる丘があり,これが,旧約聖書にみられるヨシュアに率いられたイスラエル人が攻略したとされる町である。海面下約250m,亜熱帯性気候。第2次大戦前は一寒村にすぎなかったが,1948年以降ヨルダン領となってからエリーシャの泉を利用した灌漑で肥沃な農業地帯がひらけ,ナツメヤシ,オレンジ,バナナ,イチジクなどが栽培されている。保養地としても有名。1948-49年のパレスティナ戦争以後ヨルダンに帰属するが,67年の第3次中東戦争でイスラエルに占領された。94年5月に先行自治協定が結ばれて,ガザ地区と並んでイェリコ周辺65km2の西岸地域West Bankにパレスティナ自治政府による自治が開始された。
執筆者:木村 喜博
ヨルダン渓谷にあるテルで,遺跡には,中石器文化のナトゥフ文化から歴史時代に至る各時代の文化層が重複し,この間の変遷がたどれるきわめて重要な遺跡である。先史時代の文化層では,ナトゥフ文化,その上にある先土器新石器文化A(P.P.N.A),さらにその上の先土器新石器文化B(P.P.N.B)が農耕の起源問題とからみ,多くの論議を呼んでいる。これらはいずれも土器製作以前の文化である。特にP.P.N.Aは4haにも及ぶ居住地域を防壁が囲んでおり,その性格をめぐって激論があった。P.P.N.A農耕説を説く研究者もかなり多いが,高度に発達した採集経済の基盤の上に成立したと考えるのが妥当であろう。P.P.N.Bには,漆喰塗の床をもつ方形の住居址がみられ,確実な麦栽培もこの時期から開始される。これらはアナトリアに類似のものがみられ,北方に起源を求めるのが妥当であろう。P.P.N.Aまでの土着の伝統は消滅している。
執筆者:藤本 強 青銅器時代(前4千年紀末)になると移民が波状的に到来し,テル周辺の岩盤にうがった竪穴式羨道付石窟墓や新しい土器をもたらした。前者は300余例発掘され,7類型に分類され,シリア方面との関係,墓掘削業者の存在などが想定されている。浸食作用のためテル上面には中期以降の層はほとんど残存せず,周辺の低位に痕跡を残すのみである。中期末には,従来の囲壁のみの城壁に代わり,非耐力壁(カーテンウォール)の下部から舗装急斜堤が外側へ下り,その裾を擁壁で固めた城壁が登場した。前16世紀中ごろヒクソスの侵入により廃墟になったが,青銅器時代後期前半にイスラエル人が占拠した。旧約聖書によると前9世紀イスラエル王アハブの時ベテル人がイェリコを再建したというが,考古学的証拠を欠く。前7世紀に人口は増大したが,バビロニア軍の侵入で荒廃に帰す。ペルシア時代の町はテルの南東の現在のイェリコ村内にあった。またテルの南西約1.6kmのアブ・エル・アライクでは,新約聖書時代のヘロデ王の宮殿が発掘された。
執筆者:後藤 光一郎
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ジャルモと並ぶ最古の新石器時代の遺跡。死海の北側,ヨルダン川西岸のテル・エル・スルタンにある。定住狩猟採集段階のナトゥーフ期から,穀物栽培と家畜飼育が開始された先土器新石器時代への移行が確認できる。
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【旧大陸の農耕文化】
[麦作農耕文化]
この文化は冬雨気候をもつオリエントのいわゆる〈肥沃な三日月地帯〉において,大麦,小麦,エンドウ,ダイコンなど,一群の冬作物を栽培化し,羊,ヤギなどの家畜を馴致することによって成立したものである。その起源はイラクのジャルモ,イランのアリ・コシュ,シリアのテル・アスワド,パレスティナのイェリコなど先土器新石器文化の遺跡の発掘により,前8千年紀から前7千年紀にまでさかのぼることが確かめられている。例えばジャルモ遺跡からは,野生種と栽培種の大麦と小麦が出土したほか,家畜化されたと思われる羊,ヤギ,豚の骨も多数出土した。…
…毛色は赤褐色で四肢の下部は黒い。
[家畜化]
ヤギの家畜化がいつ,どこで始められたかは明らかでないが,ヨルダンのイェリコ遺跡に家畜化されたと推定されるヤギの骨が見いだされ,前7000年ころには家畜化されていたと考えられている。シュメール都市国家下の図像にもヤギが現れるが,セム系のアッシリア人の下ではヤギはおおいに飼育されていた。…
※「イェリコ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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