イェンス(英語表記)Jens, Walter

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

イェンス
Jens, Walter

[生]1923.3.8. ハンブルク
ドイツの小説家,評論家。大学で古典文献学とドイツ文学を学び,1956年テュービンゲン大学教授。現代有数の論客で最近では論文執筆に重点をおいている。 68年レッシング賞,81年ハインリヒ・ハイネ賞受賞。主著,小説『否-被告の世界』 Nein.Die Welt der Angeklagten (1950) ,『盲人』 Der Blinde (51) ,『忘れられた人々』 Vergessene Gesichter (52) ,『老いるのを嫌った男』 Der Mann,der nicht alt werden wollte (55) ,評論『文学史にかえて』 Statt einer Literaturgeschichte (57) ,『文学と政治』 Literatur und Politik (63) ,『神学と文学』 Theologie und Literatur (86) 。

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世界大百科事典 第2版の解説

イェンス【Walter Jens】

1923‐
ドイツの作家,批評家。ハンブルクに生まれ,1956年以降チュービンゲン大学の古典文献学および修辞学の教授。一方,戦後のドイツ文学に指導的役割を果たした文学集団〈47年グループ〉を代表するすぐれた批評家の一人でもあり,さらに《白いハンカチ》(1948)ほか多くの小説作品もあって,〈学者詩人〉の典型と目されている。批評家としては《文学史に代えて》(1957),《現代のドイツ文学》(1961)ほかの評論集において知的で犀利な批評眼をもって同時代の作家・作品を論じつつ現代文学の可能性を探り,小説では,G.オーウェルにならって〈すでにわれわれ自身の中に存在している世界〉を逆ユートピアとして描いた《否――被告の世界Nein.Die Welt der Angeklagten》(1950)をはじめ〈小説をめぐる対話〉という副題を持つ《ヘル・マイスター》(1963)など,様式・手法の面で実験的色彩が濃い。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

イェンス
いぇんす
Walter Jens
(1923― )

ドイツの作家、批評家、文学研究者。故郷ハンブルクおよびフライブルクの大学で古典文献学とドイツ文学を学ぶ。1949年以降、チュービンゲン大学で古典文献学や一般修辞学を講ずるかたわら、「グループ47」を代表する文学者の一人として創作を続ける。デビュー作『白いハンカチ』(1947)に続く小説『否――被告の世界』(1950)では、罪なき他者を告発するほか生きるすべのない全体主義国家の恐怖を描き、当時のドイツを代表する作家として認められた。その後、南仏の養老院を舞台とする印象主義的な小説『忘れられた顔』(1952)、古代ギリシアに素材をとった短編『オデュッセウスの遺言』(1957)などを書く。ドイツ文学史を再構築する試みとして『文学史に代えて』(1957)を発表、「現代文学は単なるポエジーではなく、同時に学問であり哲学である」として、作家と思索者を融合させた「ポエタ・ドクトゥス」(学者詩人)として自らの立場を自覚する。
 第二次世界大戦後、ドイツが急速に保守化してゆくことに危機感を覚えたイェンスは、やがて小説という形式を離れ、随筆や講演といった、さらに直接的な語りの手段を模索し始める。1962年の評論集『ドイツの文体について』では、さまざまな作家(トーマス・マン、レッシング)や思想家(ローザ・ルクセンブルクら)が用いたレトリックを検証しているが、そこでイェンスは「言論の価値が貶(おとし)められている社会においてこそ、個人を啓蒙(けいもう)し、社会を変革するために、優れた修辞術が必要である」と説く。同様の問題意識は1970年代のエッセイと講演を集めた『共和主義的論考集』(1976)にも受け継がれているが、さらにここでイェンスは急進的な市民運動への共感を示し、文学もまた現実に対する無力さに絶望することなく、現にある不正をけっして肯定しないことがその使命であると述べている。
 こうした意識の反映として、文学者イェンスの活動は多岐にわたっている。カエサルを主人公とした『陰謀』(1968)など、多くの放送劇を書く一方、長年にわたりテレビの番組批評を担当。学者としての専門である古典ギリシア文学の翻案・翻訳も多数あり、1980年代以降はキリスト教関連の論考や、福音書の翻訳などの仕事が増えている。1976~1982年にはドイツ・ペンクラブの会長を務めた。[小山田豊]
『高本研一・中野孝次訳『現代文学 文学史に代えて』(1961・紀伊國屋書店) ▽ワルター・イェンス著、小塩節訳『ユダの弁護人』(1980・ヨルダン社) ▽ヴァルター・イェンス、ハンス・キュンク著、山本公子訳『文学にとって神とは何か』(1988・新曜社)』

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