イノモトソウ(その他表記)Pteris multifida Poir.

改訂新版 世界大百科事典 「イノモトソウ」の意味・わかりやすい解説

イノモトソウ
Pteris multifida Poir.

井戸の付近のような場所によく生えることから和名が由来したが,人家石垣,崖面などに普通にみられるイノモトソウ科シダ。根茎は短くはい,黒褐色の鱗片をつける。葉は叢生(そうせい)し,2形をなす。栄養葉は長くて40cm,胞子葉は60cmに達する。胞子葉は葉柄と葉身がほぼ同長,羽状分裂し,羽片の幅は約5mm,下部の羽片は少数の裂片をつけ,中・上部の羽片は中軸に流れて翼となる。栄養葉は羽片も,裂片も少ないが,幅はやや広い。胞子囊群は葉縁に平行に走る脈上に沿って長くつき,葉縁が変形した膜質の偽包膜でおおわれている。中部・関東以西の本州,四国,九州に分布する。

 この仲間は庭草などとして園芸に用いられるが,とくに羽片に沿って白い斑があるマツザカシダP.nipponica Shiehは栽培される。他の近縁種としては,世界的に広く分布し,日本でも紀伊半島までの暖帯に知られるようになったモエジマ背丈をこえる大型のナチシダなどがある。イノモトソウ属Pterisは世界に広く分布し,約300種が知られている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イノモトソウ」の意味・わかりやすい解説

イノモトソウ
いのもとそう / 井の許草
[学] Pteris multifida Poir.

イノモトソウ科の常緑性シダ。根茎は短く、黒褐色の鱗片(りんぺん)がある。葉は洋紙質で、栄養葉と胞子葉がある。栄養葉は小さく、羽片は幅8ミリメートル前後で縁(ふち)には浅い鋸歯(きょし)があり、線形で軸に沿って流れ、翼をつくる。胞子葉は栄養葉よりはるかに大きく、長さ60センチメートルに達し、羽片の縁に沿って長く胞子嚢(ほうしのう)群をつける。関東地方以西の各地に広く分布し、平地や山麓(さんろく)では、よくみかける。近縁のオオバノイノモトソウP. creticaはさらに大形で、栄養葉は長さ60センチメートルに達し、羽片の幅も3センチメートルになり、中軸には翼がない。胞子葉は栄養葉より長く、羽片の幅が狭い。関東、北陸以西の山地の林下などに普通にみられる。マツザカシダP. nipponicaはオオバノイノモトソウに似るが、葉は濃緑色でやや質が厚く、羽片の中軸に沿って著しい白斑(はくはん)があり、観葉植物として広く国内外で栽培される。本州、四国、九州の暖地に産するが、まれである。栽培は鉢植えがよく、水はけのよい培土を好むが、乾燥に注意する。

[西田治文]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イノモトソウ」の意味・わかりやすい解説

イノモトソウ(井の許草)
イノモトソウ
Pteris multifida

イノモトソウ科の常緑性シダ植物。関東以西の本州,四国,九州に広く分布し,平地から山麓の特に石垣などに普通みられる。朝鮮半島,中国,インドシナにも分布している。根茎は細く,短くはう。鱗片は黒褐色で小さく,長さ 2.5mm。葉は無毛で,2型がある。栄養葉は長さ 20cm,葉柄は葉身より短く,羽片は3~5対で幅 1cm。オオバノイノモトソウ (大葉の井の許草)に似るが,中軸に翼がある。葉縁には不規則な鋭い鋸歯がある。胞子葉は栄養葉より長く 60cm,羽片はより細く幅 7mm以下であるが数は多い。胞子嚢は葉縁の脈上につき,膜質の偽包膜 (→包膜 ) でおおわれている。

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百科事典マイペディア 「イノモトソウ」の意味・わかりやすい解説

イノモトソウ

イノモトソウ科の常緑シダ。本州中部以西の各地に分布。みぞのそば,木の下などに多い。葉は集まって出て高さ10〜25cm,数対の羽片からなる複葉で,羽片は狭い線形となる。胞子嚢群のついたものは羽片の縁が折れ返ってさらに狭い。近縁のオオバノイノモトソウはやや大型。

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