スイスの美術史家。ウィンタートゥールに生まれ,チューリヒに没す。1893年J.ブルクハルトの後任としてバーゼル大学教授となり,以後ベルリン(1902),ミュンヘン(1912),チューリヒ(1924)各大学を歴任。線的なものから絵画的なものへ,閉じられた形式から開かれた形式へ等々の対概念をもって視形式Sehformenの自律的発展を論じた《美術史の基礎概念》(1915)は単に美術史のみならず,文芸学など芸術学一般にも広く影響をあたえた。しかしその理論はルネサンスからバロック期への西洋近世美術の形式発展にのみ妥当する。主著は上記のほか《ルネサンスとバロック》(1888),《古典的美術》(1899)が有名で,また《アルブレヒト・デューラーの芸術》(1905)はこの画家の個人研究として傑出している。ブルクハルトの愛弟子として彼もまたイタリア・ルネサンスの古典的美術の使徒であったが,それとの対比において論じた《イタリアとドイツ的形式感情》(1931)はよくドイツ美術の本質を解明している。最後の著書《美術史論考》(1941)は示唆に富む小品集で,第2次大戦中の刊行として注目を引いた。J.ガントナー編《ブルクハルト=ウェルフリン往復書簡集》(1948),《自伝,日記,書簡》(1982)は美術史学草創期の記録としても貴重である。
執筆者:前川 誠郎
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スイス生まれの美術史学者。バーゼル、ミュンヘン、ベルリンなどの大学教授を歴任。20世紀初頭の美術史学研究に新しい方法論を提唱し、芸術学にも大きな業績を残した。その考え方は、ブルクハルトやフィードラーのような美術史、芸術学などの学者の理論に基づくとともに、実際に作品を制作した画家・彫刻家との交遊に負うところも多い。様式の変遷の根源を、時代精神や民族性や個人的気質だけに求めず、視(み)る形式自体の展開のうちにとらえ、「人名なしの美術史」を唱え、とくに、ルネサンスからバロックに至る発展を5対の基礎的な対立概念のもとに体系づけた。この方法は美術以外の芸術の理論的研究にも大きな刺激を与えた。主著『美術史の基礎概念』(1915)のほか『ルネサンスとバロック』(1888)、『古典美術』(1899)などがある。
[鹿島 享]
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…(3)芸術学を体系的美術論にかぎれば,のちに一般芸術学を誘発したフィードラーはひたすら造形芸術の原理をたずねて,これを純粋可視性とし,視覚的直観による認識が,知性によるのとは別個独自の芸術的世界を構成させるとみた。形式偏重の傾きをはらみながら,この芸術観は各方面を刺激し,美術史ではウェルフリンがとりいれて,様式の変遷を純粋な視覚的直観形式の自律的展開とみる形式主義的理論を樹立した。他方ゼンパーは芸術作品を使用目的,材料,技巧による型にはまった産物と規定したが,この唯物論的把握をしりぞけてリーグルは,一定目的を意識せる芸術意思の成果が作品であるとした。…
… 第2に,様式概念としての古典主義は,19世紀以降の美術史学の発展の歴史のなかで,とくにバロックとの対比において,しだいに明確な内容を与えられるようになってきた。ウェルフリンは,その《美術史の基礎概念》(1915)において,〈古典主義〉と〈バロック〉の様式上の特質を,〈線的と絵画的〉〈平面性と奥行性〉〈閉ざされた形式と開かれた形式〉〈多様性と統一性〉〈絶対的明瞭性と相対的明瞭性〉の5項の対概念によって分析,それぞれ前者を古典主義の,後者をバロックの特色であるとした。ウェルフリンはこの分析を,16世紀(古典主義)と17世紀(バロック)の建築,絵画,彫刻について行ったが,フォシヨン(《形体の生命》1934)は,それをさらに発展させて,〈アルカイク様式〉から〈古典主義様式〉を経て〈バロック様式〉へと展開していく一般的な様式発展のなかに位置づけた。…
… アカデミズムと新古典主義が支配力を弱めた19世紀末にいたって,バロックは再評価されたが,それは,バロックと呼ばれた芸術様式を〈非正統〉とは考えなくなったという,趣味,思想,あるいは芸術創造上のコンセプトの変革によっている。芸術批評史において,ウィンケルマンと新古典主義者が古典主義を唯一至上の原理としたのに対して,ドイツ・ロマン主義者や,ニーチェ,ワーグナーなどゲルマン系の思想家の間に,ラテン的古典主義に反して,ゲルマン的情念を定立させようとする気運が生じ,これがウェルフリン,バール,ワイスバハなどゲルマン系の美学者をして,バロックの復権を行わせたのである。彼らは,古典主義と対立し,かつこれと並ぶ第二の美の様態があることを主張し,バロックにルネサンスまたは古典主義と同等の価値を与えた。…
… これらの基礎の上に,20世紀の美術史は,固有の領域を持つ独立した学問として,きわめて多面的な発展を見せた。A.リーグルは,《様式の問題》(1893)や《晩期ローマ工芸美術論》(1901)において対象を西欧以外の工芸の分野にまで一挙に拡大するとともに,文様の発展の法則を探り,H.ウェルフリン(《美術史の基礎概念》1915)やH.フォシヨン(《形体の生命》1934)は,様式分析とその展開の跡づけのためのきわめて有効な方法論を提出した。他方,É.マールの図像学的研究,M.ドボルジャークの精神史的研究,A.ワールブルク,E.パノフスキーのイコノロジー研究(図像学)は,作品の思想的,寓意的,象徴的意味を解読することにより,時代の精神的風土とのつながりを明らかにしようと試みた。…
※「ウェルフリン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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