翻訳|Etna
イタリア南部,シチリア島北東部にあり,イオニア海に面しているヨーロッパ最高の活火山。標高3323mで,山頂噴火のたびに多少変動する(1948年には3279m)。溶岩流の多い成層火山で,基底は50km×40km,1200km2をおおう。山体の容積は1000km3,弧状列島の火山としては最大級で,266の側火山がある。山頂には現在の火口丘ピアノ・デル・ラーゴPiano del Lagoがそびえ,山体東部には幅4kmの爆裂火口起源の大裂谷バル・デル・ボベVal del Boveがある。基盤は始新世~鮮新世の海成層で,火山活動は海底で始まり,中部更新世以降は陸上火山となる。岩石はカリウムの多いアルカリ岩で,アルカリ玄武岩,粗面玄武岩,白榴石フォノライトなどからなる。噴火は溶岩流を伴うストロンボリ式噴火が多い。
活動史はきわめて古く,ギリシア神話では鍛冶の神ヘファイストスまたはキュクロプスの仕事場の煙であるとか,ゼウスによって山の下に閉じ込められたエンケラドスまたはテュフォンであるとかいわれ,ギリシア名Aitnēはaithō(〈光る,燃える〉の意)からきている。噴火の記録は前475年(前693年の記録もエトナといわれるが確認されていない)から現在まで80回以上あり,前396年の噴火ではカターニア進攻を図ったカルタゴ軍が長さ40kmの溶岩流のため阻止されたといわれている。最も被害の大きかったのは1669年の噴火で,山頂火口は破壊され,約1km3もの噴出物を放出し,溶岩流は南南東34kmのカターニア市街地にまで達した。
古い火山岩地帯では,土壌浸食が激しい。植生は典型的な垂直分布を示し,標高1250~1300mまでは地中海式フローラが見られ,1650~1700mまではクリやカシを主体とする森林,その上の2000mまではカバノキ,マツを主体とする森林によっておおわれている。雑穀およびかんきつ類やブドウなどの果樹の栽培は標高1500~1600mにまでおよんでいるが,1000mを越すと水が得られないので,農業開発はひじょうに困難である。散居状の農家は最盛時には標高1200mにまで達していたが,現在では高所の農家はほとんど放棄されている。2300~2400mまでは山岳草地で,これを越すと植生は貧弱になり,3000m以上では植生はまったく見られない。山頂部は晩夏以外は雪におおわれている。東側斜面には1800mまで自動車道路が通じ,さらにその上にロープウェーがあって観光地化している。また,国際火山学研究所もある。南東部斜面で産するいくつかの種類のブドウ酒は,アルコール濃度が高く有名である。
執筆者:中村 一明+竹内 啓一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…埋葬時に天使が現れ,彼女がこの地方を救うと予告した。翌年エトナ山が爆発した際,聖遺物のベールの力でカターニアは溶岩流から救われ,同市の守護聖人となったという。乳母,釣鐘(形が乳房と類似)職人の守護聖人で,乳房の病気や火災を防ぐとされる。…
…複成火山は,休止期をはさんで数万年ないし数千万年をかけて,数百回ときには数千回の噴火を行ってできる火山で,一般に大型である。成層火山は体積10~102km3のものが多く,最大はキリマンジャロ,エトナなどの103km3である。ハワイ型楯状火山は海底部分まで含めると104km3程度である。…
…オリュンポスの神々がガイア(〈大地〉)の子たるティタン神族およびギガンテスを征服したとき,怒ったガイアが最後に生んだ子で,天にも届く背丈,伸ばせば世界の東西の涯にも達する両腕,百の蛇の頭,火を放つ目をもち,腿(もも)から下は巨大な毒蛇がとぐろを巻いた形をしていた。この恐るべき怪物は天に攻め寄せたが,ゼウスは遠くは雷霆(らいてい)を放ち,近くは金剛の鎌で打ってこれと闘い,最後はシチリア島に逃げたところをエトナ山を投げつけ,その下に押しこめた。エトナ山の噴火は,この重圧を逃れんとするテュフォンのしわざであるという。…
※「エトナ山」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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