エルツ山脈(読み)エルツサンミャク(英語表記)Erzgebirge

デジタル大辞泉 「エルツ山脈」の意味・読み・例文・類語

エルツ‐さんみゃく【エルツ山脈】

Erzgebirge》⇒エルツ山地

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「エルツ山脈」の意味・わかりやすい解説

エルツ[山脈]
Erzgebirge[ドイツ]
Krušné hory[チエコ]

ヨーロッパ中央部,ドイツのザクセン州とチェコのボヘミア地方の境をなす山脈。最高峰はクリーノベツKlínovec峰(1244m)。西方はフィヒテルFichtel山脈に続き,東はエルベ川に限られる。東北東から西南西にのび,延長約130km,幅30~35km。北のザクセン側には緩やかに傾斜しながら丘陵地へ続くが,南のボヘミア盆地側には急傾斜で臨み,分水山脈は南に寄っている。高原性の山地で,東部は主として片麻岩,西部は結晶片岩,花コウ岩などよりなる。エルツとは鉱石の意で,1163年にフライベルク銀鉱石が発見されて以来,ここはエルツ山脈と呼ばれるようになった。これ以後,スズ,鉄鉱石,鉛,銅,ニッケルコバルトなどの採掘が続き,かつてほとんど人の住んでいなかった山林地帯に多くの人々が鉱石を求めて移住し,15世紀にはその絶頂期を迎えた。多くの鉱山都市が生まれ,ザクセン地方は大いに発展したが,17世紀以降,アメリカ大陸で大規模な銀山が発見されて銀の値が下がり,鉱山は下火になった。19世紀後半からはウラン鉱の採掘が行われているが,この間機械と繊維を中心とする多様な工業が発達した。その中心はケムニッツ,プラウエン,ツウィッカウなどザクセン側の山麓にある。一方山間の町にも山地から得られる木材,鉄,その他の原料を利用して,木製品,玩具楽器,陶器,亜麻,織物などの工業が興った。この一帯はまた鉱泉が多く,保養地が形成されている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エルツ山脈」の意味・わかりやすい解説

エルツ山脈
えるつさんみゃく
Erzgebirge

ドイツ東部とチェコ北西部の境に、東北東―西南西の方向に延びる山脈。東にはエルプ砂岩山地、西にはエルスター山地がある。長さ約130キロメートル、幅30~35キロメートル。最高峰は、ドイツ側ではフィヒテル山(1214メートル)、チェコ側ではクリーノベツ山(1244メートル)。山脈の東部と中部は主として片麻(へんま)岩からなり、西部は主として雲母(うんも)片岩、千枚岩、花崗(かこう)岩からなる。地形的には傾動地塊であって、南のチェコ側は急傾斜をなすが、北のドイツ側は緩傾斜をなし、ザクセンの低地にしだいに移行していく。ドイツ側の浅い谷沿いには、中世に多くの林地開拓村Waldhufendorfが成立し、その特徴ある形態が現在もよく残っている。「エルツ」とは鉱石の意であり、12世紀にフライベルクで銀鉱が発見されてからこうよばれるようになった。それ以来、銀や鉛などの鉱石採掘が盛んになり、15世紀には最盛期を迎えて、多くの鉱山町が発展したが、17世紀には衰退した。第二次世界大戦後、西部でウラン鉱が採掘されたが、現在ではほとんど枯渇した。東部でわずかながら亜鉛が採掘されるにすぎない。17世紀の鉱山衰退の後、それにかわるものとして、森林資源を利用した木材・木製品工業とくに玩具(がんぐ)製造業や、刺しゅう、金属製品など、さまざまの工業が発展。現在では保養地としてにぎわっているところも多い。

[浮田典良]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内のエルツ山脈の言及

【チェコ】より


【自然】
国土はポーランド,ドイツ,オーストリア,スロバキアと国境を接する。ボヘミアは北西部のエルツ山脈(クルシュネー・ホリKrušnéhory),北東部のズデーテン山地(クルコノシェKrkonošeとオルリツケー・ホリOrlické horyからなる),西・南西部のボヘミアの森Böhmer Wald(チェスキー・レスČeský les,シュマバŠumavaからなる),南東部のモラビア高地(チェスコモラフスカー・ブルホビナČeskomoravská vrchovina)といった山地によって囲まれた盆地で,盆地内は全体に南から北へ高度を下げていく準平原と台地から成っている。ボヘミアの中央を南から北へブルタバ(モルダウ)川が流れ,北部でラベ(エルベ)川に注ぐ。…

【チェコスロバキア】より

…1918年から92年まで続いた中欧の共和国。国名通称はチェコ語,スロバキア語ともČeskoslovensko。1920‐38年,1945‐60年の正式国名は〈チェコスロバキア共和国Českoslovká republika〉。1948年以後は社会主義体制をとり,60年からの正式国名は〈チェコスロバキア社会主義共和国Československá Socialistická republika〉。1969年よりチェコ社会主義共和国とスロバキア社会主義共和国の連邦制に移行したが,89年の〈東欧革命〉の進行過程で両共和国で連邦制の見直しが図られ,正式国名を〈チェコおよびスロバキア連邦共和国Česká a Slovenská Federativní Republika〉に変更した。…

【ボヘミア盆地】より

…約200km四方に広がる起伏の多い高地で,ラベ(エルベ)川,その支流のブルタバ川,ベロウンカBerounka川などの流域地帯。東部はチェスコ・モラフスカ(ボヘミア・モラビア)高地でチェコ共和国のモラビア地方と分断され,残りの三方はチェスキー・レスČeský lesとシュマバŠumava山脈(〈ボヘミア森Böhmerwald〉と総称される),クルシュネー・ホリKrušné hory(エルツ)山脈,クルコノシェKrkonoše(リーゼン)山脈によって囲まれ,オーストリア,ドイツ,ポーランドとの国境を形成している。気候は大陸性で,中心都市プラハの年平均気温が9.6℃,平均年降水量は332mmとかなり乾燥している。…

【ドイツ】より

…ここでは山地や低地,河川の方向によって示される構造に系統性がある。それらは,オーバーライン地溝によるほぼ南北(ライン)方向,ハルツ山地による南東~北西(ハルツまたはズデーテン)方向,およびライン片岩山地またはエルツ山脈による南西~北東(バリスカンまたはエルツ)方向である。より大局的には,西はアルデンヌ高原から東はポーランド中山山地に連続する中部ヨーロッパ中山山地の一部をなしている。…

【ボヘミア盆地】より

…約200km四方に広がる起伏の多い高地で,ラベ(エルベ)川,その支流のブルタバ川,ベロウンカBerounka川などの流域地帯。東部はチェスコ・モラフスカ(ボヘミア・モラビア)高地でチェコ共和国のモラビア地方と分断され,残りの三方はチェスキー・レスČeský lesとシュマバŠumava山脈(〈ボヘミア森Böhmerwald〉と総称される),クルシュネー・ホリKrušné hory(エルツ)山脈,クルコノシェKrkonoše(リーゼン)山脈によって囲まれ,オーストリア,ドイツ,ポーランドとの国境を形成している。気候は大陸性で,中心都市プラハの年平均気温が9.6℃,平均年降水量は332mmとかなり乾燥している。…

※「エルツ山脈」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android