エンジニアリングプラスチック(読み)えんじにありんぐぷらすちっく(英語表記)engineering plastic

デジタル大辞泉 の解説

エンジニアリング‐プラスチック(engineering plastics)

強度・耐熱性・耐摩耗性にすぐれ、機械部品・電気電子部品などに用いられるプラスチックポリカーボネートポリアミドなど。エンプラ

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日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

エンジニアリング・プラスチック
えんじにありんぐぷらすちっく
engineering plastic

主として機械装置の分野に、金属材料にかわって使用されるようになったプラスチックの総称。1960年代にアメリカのデュポン社が、いわゆる「鉄への挑戦材料」としてポリイミド樹脂(熱可塑性プラスチック)などを出してから、この語が使われるようになったとされる。一般に、100℃以上あるいは0℃以下でも寸法安定性や機械的強度を保つ樹脂のことである。

 機械材料は厳しい環境下でも十分に耐えうる、高度の機械的強度、耐熱性、耐摩耗性などが要求され、そのため従来の脂肪族、エステル結合、アミド構造などの分子に芳香族環を導入し、それらの組合せにより目的の特性を向上させている。一般的にはポリプロピレン高密度ポリエチレンフェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ナイロン(ポリアミド)などがそうであるが、狭義にはもっとも金属に似た性質をもった、硬く粘り強いプラスチック、たとえばABS樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシドPPO)、ポリイミドなどの熱可塑性プラスチックをいう。1970年ごろからはエンジニアリング・プラスチックをガラス織布や炭素繊維織布で強化し、その性質をより金属に近づけたガラス繊維強化プラスチック(FRP)の発展が著しい。また芳香族ナイロン、フッ素系のポリマーや新しい無機系プラスチックなどが注目され、これらはFRPのように複合化しての利用が注目されている。

 エンジニアリング・プラスチックは軽量でかつさびずに金属と同じような機械的性質をもつというので、急速に用途を拡大し、いまやスポーツ用品、自動車航空機、船舶工業や宇宙開発などの各方面に利用されている。

[垣内 弘]

『日本包装出版編・刊『エンジニアリング・プラスチックの需要と新用途(市場調査資料)』(1972)』『山口章三郎著『エンジニアリング・プラスチック活用ハンドブック』(1982・技術評論社)』『藤重昇永著『不思議なエンジニアリング・プラスチック――繊維から歯車まで』(1985・読売新聞社)』『高分子学会編『入門 高分子材料――高度機能をめざす新しい材料展開』(1986・共立出版)』『井本仁一郎編『日本の先端産業3 新素材』(1987・曜曜社出版)』『鈴木明著『先進工業材料を斬る――業界トップインタビューから』(1987・日刊工業新聞社)』『倉田正也著『プラスチック材料技術読本』(1987・日刊工業新聞社)』『本山卓彦・平山順一著『トコトンやさしいプラスチックの本』(2003・日刊工業新聞社)』

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改訂新版 世界大百科事典 の解説

エンジニアリングプラスチック
engineering plastic

機械部品,自動車用部品,電子・電気機器部品として,それぞれの機能を生かして使用される100℃以上の耐熱性を有する樹脂の総称。エンプラと略称されることもある。代表的なものとしては,ポリアセタールポリアミド(ナイロン),ポリエステル(PBT),ポリカーボネート,変性PPO(商品名ノリル)があり,汎用エンジニアリングプラスチック汎用エンプラ)と呼ばれる。エポキシ樹脂シリコーン樹脂のような熱硬化性樹脂,より耐熱性の高いポリアリレート,PPS,ポリイミド樹脂なども含まれる。これらの耐熱性樹脂は,特殊エンジニアリングプラスチック,スーパーエンジニアリングプラスチックとも呼ばれる。代表的な汎用エンジニアリングプラスチックの特徴はつぎのとおりである。

(1)ポリアセタール 射出成形性にすぐれ,生産性が高い。硬く,寸法安定性にすぐれ,ガラス繊維などで強化することなく使用されることが多い。リール,ギヤなどの重要機構部品が多い。問題点として,難燃化しにくいことがあげられる。

(2)ポリアミド 強靱で,耐薬品性にすぐれている。繊維強化,非強化の両方で使用される。自己消火性がある。機構部品が多い。問題点として,吸水性およびそれによる寸法変化の大きいことがあげられる。

(3)ポリカーボネート 耐衝撃性,透明性にすぐれ,寸法精度がよく,耐熱性も高い。コネクター,カメラの機構部品などの精密成形品が多い。多くは非強化のまま用いられる。問題点として,耐溶剤性の悪いことがあげられる。

(4)変性PPO ポリフェニレンオキシド(PPO)とポリスチレンの均一混合物であり,汎用樹脂のABSに近い物性から耐熱性樹脂の物性まで多様性がある。難燃化も容易である。通常,高分子どうしの混合は相溶性が悪く,相分離することが多いが,この場合は例外的に相溶性が高く,分子分散が可能である。比較的ABSに近い物性の樹脂が,テレビやラジオのキャビネット,複写機やコンピューターのケースなどに用いられている。

(5)PBT ポリブチレンテレフタレートの略で,テレフタル酸と1,4-ブタンジオールからのポリエステルである。熱変形温度は低いが,ほとんどの場合ガラス繊維強化で使用されるので問題はなく,むしろ200℃以上にも耐えることができる。難燃化が容易で,電気特性にすぐれており,テレビ,ラジオ用の部品などに用いられる。成形時に加水分解しやすいので十分乾燥する必要がある。
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化学辞典 第2版 の解説

エンジニアリングプラスチック
エンジニアリングプラスチック
engineering plastics

工業用材料として,100 ℃ 以上,0 ℃ 以下の温度で使用できる熱可塑性樹脂をいい,エンプラと略語でよぶことが多い.汎用プラスチックであるポリエチレンスチレンポリ(塩化ビニル)などは,100 ℃ 以上の温度になると機械的特性が失われ,工業材料として使用できない.従来の木材,金属,無機材料のような力学的性質と,耐熱性,耐久性をもち,機械部品を中心に電気部品,住宅用材などである程度の強度維持が必要な部分に使用できる高分子材料のことをエンプラといい,ポリアセタールポリアミドポリカーボネートを三大汎用エンプラとよぶ.とくに耐熱性にすぐれた材料をスパーエンジニアリングプラスチックといい,ポリ(フェニレンスルフィド)樹脂(PPS樹脂)はその一つである.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア の解説

エンジニアリングプラスチック

それぞれの機能を生かして,機械部品,自動車用部品,電子・電気機器部品として使用される耐熱性樹脂の総称。エンプラとも。ポリアミド,ポリフェニレンオキシドとポリスチレンの均一混合による変性PPO,ポリブチレンテレフタレート(ポリエステルの一種でPBTと略される)などの汎用エンジニアリングプラスチックが代表的なもの。このほかエポキシ樹脂やより耐熱性の高いポリアリレート,ポリイミド樹脂などがある。加工性能の高さ,堅牢性,耐熱性といった面から高く評価されるが,廃棄物となった際のリサイクルの方法は確立途上であり,今後の技術進展も待たれる。
→関連項目ポリアセタールポリアミド

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 の解説

エンジニアリングプラスチック
engineering plastic

強度が大で,耐熱性,耐薬品性にすぐれており,従来は金属材料などが使用されていたところに工業材料として使用できる重合体をいう。ナイロン樹脂,ポリカーボネートアセタール樹脂などがある。

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世界大百科事典(旧版)内のエンジニアリングプラスチックの言及

【ガス化学工業】より

…メーカーには,三井東圧化学,三菱瓦斯(ガス)化学,信越化学工業,日産化学工業,日本化成,協和ガス化学工業,コープケミカル,東洋ガス化学工業などがある。ガス化学工業の主要な前記3製品のうち,まずメタノールはその大半がホルムアルデヒドになり,ホルムアルデヒドは,ユリア樹脂(尿素樹脂),メラミン樹脂(接着剤や化粧板等の原料)などや,ポリアセタール(エンジニアリングプラスチック,いわゆるエンプラ)などの原料である。アンモニアは,尿素,硫安などの窒素肥料や,ナイロン,アクリルなどの合成繊維の原料をつくるのに使われる。…

【合成樹脂】より

… しかしながら,1973年の第1次,79年の第2次オイル・ショックを通して,石油との結びつきが問題になり,また大量に使いすてられるプラスチック廃棄物の処理も問題となってきている。今後の合成樹脂の伸びる方向として,少量でも機能を生かして用いられるエンジニアリングプラスチックとか,省エネルギーのために,鉄やアルミニウムより強くて軽い強化プラスチックの一種ACM(advanced composite materialの略称。炭素繊維などで補強された先進複合材料)などが注目されている。…

【石油化学工業】より

…ユニオン・カーバイド社は低密度ポリエチレンを気相法で重合させる技術を開発し,これもコストの低下に結びついている。さらに,高機能の合成繊維やエンジニアリングプラスチック(エンプラ)と呼ばれる高機能プラスチックの開発も進み,自動車や飛行機の構造部分にもこれらの素材が使われるようになっている。【北井 義久】
[石油化学工業の公害]
 石油化学工業はその製品に応じて多様な生産工程から成り,それらによる公害を一様に扱うことはできない。…

※「エンジニアリングプラスチック」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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