略称OR。オペレーショナルアナリシスoperational analysisともいう。一般にシステムの計画と運用に関する諸問題を科学的な方法や道具を用いて解析し,その結果を執行者に知らせることにより,意思決定のために有用な情報を提供する方法をいう。
第2次世界大戦の直前から戦中にかけて,アメリカ軍およびイギリス軍が作戦研究(オペレーションズリサーチ)に利用したことが直接的な起源である。
1930年代の終りにイギリス空軍のための防空の研究が開始され,ノーベル賞の受賞者である物理学者ブラケットP.M.S.Blackett(1897-1974)を中心とするブラケットサーカスと称されたグループが,新しく発明されたレーダーを用い,ドイツの爆撃機に対する防御問題や対空火器の照準などに関して研究し,多くの成果をあげた。この集団は生理学者,数理物理学者,天体物理学者,数学者,陸軍士官,測量技師からなり,きわめて学際的な顔ぶれであった。またイギリスのランチェスターFredrick W.Lanchester(1868-1946)は戦闘に関して有名なランチェスターの法則を導いた。すなわち,兵力x(t),y(t)の両軍が交戦している際,その兵数の変化は微分方程式dy/dx=Ex/yで表し,その解として二乗法則すなわちy02-y2=E(x02-x2)をえた。ここにx0,y0は両軍の初期兵数,Eは兵器の優劣,訓練度などに関係する定数である。
第2次大戦中にはアメリカ海軍およびイギリス海軍はドイツ潜水艦の脅威に対抗するため対潜作戦研究グループを作って潜水艦の攻撃方法,輸送船団の規模と配置などを研究させた。一方,日本の神風特攻隊による艦船の被害を防衛するためにモースPhilip M.Morseを長とするOR班が空母に乗って特攻隊の攻撃を分析し,その対策を練った。その結果,特攻隊が大型艦をねらった場合はジグザグ航行によってその命中率を50%低下させることができ,小型艦をねらった場合には直進によって命中率を30%減少させることができた。このように直接軍事に関連したOR以外にも兵站(へいたん),輸送の問題をはじめその後のORの芽となる多くの問題と解析手法が大戦中に出現した。
第2次大戦中,軍用に開発されたORは,戦後産業界へ導入されるに及んで飛躍的な発展をとげた。その背景には,企業経営に対する競争的な圧力や規模の拡大に伴う効率の向上への指向があり,また手段としてのコンピューターの発達がある。アメリカ各企業,官庁内にORグループが設置され,またコンサルタント会社も創設された。そこでは,当該する問題についての最適な決裁が可能になるようにするための判断の基礎を執行者に提供する分析研究が行われた。OR手法も時代とともに新しい発達をとげた。このような普及を背景に1952年にアメリカOR学会が設立された。日本には53年ごろから企業に導入され,57年に日本オペレーションズ・リサーチ学会が設立された。
ORをひと言にいうのは困難であるし,また人によってそれぞれ違う表現をしている。しかし共通していえることは,企業経営や社会現象に底流する構造を解明し,そこに広義の法則性を発見して,その法則性にもとづく政策を展開することである。法則性の発見という点では自然科学はすでに長い歴史と数多くの輝かしい実績をもっており,ORもそのアナロジーの下に発達してきた。しかしORの場合に重要なことは政策変数または制御変数を合目的的に決定することであり,ここに最適化という概念が生じる。一般に対象とするシステムにはさまざまなパラメーターが含まれており,それらには意思決定者が自由に決定できる制御可能なものと,外から与えられる制御不能なものがある。また確定的に決定できるものと確率的にしか把握できないものがある。そのためORのモデルは多くの場合,確定的モデルと確率的モデルに二分される。前者としては最適化手法,後者としては待ち行列,取替問題,在庫管理,シミュレーションなどがある。システムパラメーターとシステムの行動の間に内在する法則を発見した上で,制御可能パラメーターを合目的的に決定することが具体的なOR作業として要求されるが,ここで何を目的とするかが改めて問われる。民間企業の場合,利益最大化,費用最小化という明快な目的があるのに対して,公共企業体では公益の最大化というあいまいな目的になる場合が多い。そのうえ利害を異にする集団を対象とするORでは,単一の目的を追求するよりは,複数個の目標基準を満たすことの方が重要となる。
ORはきわめて学際的な分野に属しているためOR実施者には幅広い経験と,事象の本質を見抜く鋭い洞察力が要求される。
ORは次のような場合によく用いられる。(1)計画の問題 人員,時間,設備,資材といった資源を効率よく使って利益を最大化したり費用を最小化したりする目的で用いられる。手法としては線形計画法,日程計画法などがあり,石油産業,建設業をはじめ多くの企業で日常的に使われている。(2)生産,在庫,流通の問題 変動する需要に対して生産計画をどのように立て,在庫をどのようにもち,製品の流通をどのようにはかれば最適であるかを研究する。予測手法,在庫理論,数理計画法が使われる。(3)待ち行列 いたるところに見られる待ち行列現象を解析し,施設の適正規模やサービス形態を研究する。客の到着やサービスの時間は一般に確率的に変動するので,その解析のためには確率過程の理論が用いられる。複雑な問題に対してはモンテカルロ法によるシミュレーションを用いて現象を解明する。(4)予測の問題 需要予測,経済予測をはじめORでは予測は大きなテーマである。過去のデータの中に含まれる変化の特性の統計的な法則性を利用して,将来の値を数値的に予測する統計的予測方法や,大勢の人の勘を基礎として衆知を集めて行うデルファイ法(技術予測)などがある。
ORは次のような手順で実施されることが多い。(1)問題発見 ORは総務,経理,生産,販売,技術,人事,研究開発のすべての分野で行われる。当該部門の責任者とOR担当者がチームを作って問題の所在を明確化する。(2)定式化と数学モデル 問題に関係する諸要因のもつ構造をもとに,数学モデルを作る。数学的解析が困難な場合にはシミュレーションモデルを作る。(3)モデルの解 ORの各種理論や手法を用いてモデルの解をうる。この際,コンピューターを用いることが多い。(4)解の実施 数学モデルでえられた解が実際に通用するかどうかをよく検討した上で実行可能な解を作り実施する。(5)解の修正 実施の途中で,問題を取りまく環境条件が変化することが多い。そのような場合,解を修正して実施する。
執筆者:刀根 薫
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略称OR。一般には「システムの運用に関する問題に、科学的な方法・技法および用具を適用して、これを管理する人々に最適の解を提供すること」(C・W・チャーチマン)と定義される。
ORは、第二次世界大戦中、イギリス、アメリカで軍事問題解決の技法として発展した。レーダー網の配置、損害を最小にする護送船団の編成と運航、潜水艦捜索活動の改善、効果的爆撃のための編隊の構成と運用、日本の特攻機による被害を最小化するための艦艇別回避運動の決定などが具体的成果であった。このようにORは軍事活動に関する作戦(オペレーション)上の意思決定技法として発展してきたが、目標内容を置き換えれば、あらゆるシステムもしくは組織体に適用することが可能である。前出の定義は、このようなORの普遍性を表しているが、競争という比較的軍事活動に近い活動を行う企業で、そののちORの適用は目覚ましい進展をみせることになった。
意思決定技法としてのORは、いくつかの特徴をもっている。第一の特徴は、システムズ・アプローチをとり、意思決定を必要とする状況をシステム的に把握することである。システムとは、共通目的をもった諸種の要素や部分の集合をいう。諸要素、諸部分は相互作用関係にたっているが、利害が背反したり、立場が異なるのがむしろ普通である。ORは、このようなシステムについて、部分的な最適化ではなく、共通目的の観点から全体的な最適化を図ることを意図している。第二の特徴は、学際的アプローチをとり、いろいろな分野の専門家もしくは専門知識を広く結集した問題解決を意図していることである。新しい問題状況には、特定の専門分野からのアプローチ(接近方法)のみでは最適の解決法がみつけられず、あるいは問題の内容そのものが正確に把握できないことが多い。ORは、たとえば経済学、数学、工学などの成果を結集した新しい発想を多用し重視する。第三の特徴は、科学的アプローチをとることである。科学的アプローチは、まず現状分析によって問題の所在を明確にし、問題を数式モデルとして定式化する。このモデルは、意思決定の良否を評価する尺度を定め、意思決定者のコントロールの可能な変数と不能な変数とを区別し、各変数を評価尺度に結び付ける特定の関数関係の形で定式化するという順序でつくられる。このモデルについて、解析的方法、シミュレーションのような実験的方法、数値解析などによって解を求め、解の評価ののちに特定の解を選択し、実施に移るのである。近年では、モデルを構成し、解を求め、評価し、選択する過程にコンピュータを多用するのがむしろ普通である。
ORの代表的な手法とそれらの応用分野例を列挙すれば、次のようなものがある。
(1)数学的計画法 これは資源制約のもとで特定の目的関数の値を最適化しようとするものであり、生産計画、輸送計画などに用いられる。問題状況に応じて、線形計画法、整数計画法、二次計画法、非線形計画法などが適用される。
(2)ビジネス・ゲームに代表されるゲームの理論。
(3)適正な在庫水準を維持するための最適発注量および発注時点の決定を中心とした在庫モデル。
(4)パート(PERT)ないしネットワーク理論 大規模プロジェクトの計画と管理に使用される。
(5)待ち行列理論 空港や港湾のようにサービス待ちが生じる問題に適用される。
(6)大規模なシステムの分析や不確定要素を含む問題の分析のためのシミュレーション。
(7)時間要素を含んだ動的システムについて最適解を求めるダイナミック・プログラミング。
(8)投資決定に典型的にみられるように、年金計算を応用するもの。このほか、情報理論や記号論理をORに含める見方もある。
[森本三男]
『C・W・チャーチマン、R・L・エイコフ、E・L・アーノフ著、森口繁一監訳『オペレーションズ・リサーチ入門』(1960・紀伊國屋書店)』▽『OR事典編集委員会編『OR事典』(1975・日科技連)』▽『小林三郎著『経営数学』改訂版(1995・高文堂出版社)』
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…この理論は,その後の統計学の理論的な発展に大きな影響を与え,たとえば〈逐次解析〉や〈多段決定過程〉などの研究が盛んになった。また,企業の政策決定を科学的に行おうとするオペレーションズリサーチの分野にも多大の影響を及ぼした。ワルドの一般理論では,利得の代りに〈損失〉を用いて議論しているので,(1)に相当する基準,すなわち各行動をとったときに生ずる最大の損失を比較して,それが最小になる行動を選ぶという基準をミニマクス基準とよぶ。…
…1930年代にはRCAにおいてテレビジョン放送に関連して必要性が指摘され,40年代にはベル電話研究所で用語として用いられていたという。第2次大戦中のオペレーションズリサーチの誕生,戦後のランド・コーポレーションでの数理的手法の開発を基礎として,システム分析およびシステムズアプローチの効用は国防,宇宙開発を通じて認識された。57年のH.H.グッドとR.メイコールの著書《システム工学》により名称が確立し,60年代の宇宙開発により飛躍的発展を遂げ,加えてシステム工学の名称のもとで各種の考え方,理論,手順,手法が統一され,今目の姿を形づくってきた。…
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