改訂新版 世界大百科事典 「カブトガニ」の意味・わかりやすい解説
カブトガニ (兜蟹/甲蟹)
horse-shoe crab
king crab
Tachypleus tridentatus
蛛形(ちゆけい)類と近い関係にある浅海にすむ剣尾目カブトガニ科の節足動物。体は馬蹄(ばてい)形の頭胸甲に覆われた前体部,腹甲で覆われた後体部と剣状の尾部とに分かれており,一見うちわ形に見える。体は光沢のある緑褐色。3体部は境目で互いに関節のようにつながっており,可動。全長60cmくらいになる。頭胸甲の背面には前方中央に小さい単眼2個と,両側の隆起線の後方外側にそれぞれ1個の複眼をもつ。腹面の中央に口があり,それを取り囲んで7対のあしがある。第1肢は口の前にあって,鋏角(きようかく)と呼ばれている。続く5肢は歩脚で,それらの末端の節ははさみになっているが,基部にはそしゃく面があって口器の役目を兼ねている。第7肢は口の後にあり,小さく,唇様肢(しんようし)と呼ばれる。6対の葉状の腹肢のうち,第1腹肢は左右が融合して1枚となり,後方の全腹肢を覆うので蓋板(がいばん)と呼ばれ,その基部背面に1対の生殖孔が開いている。残りの5対の腹肢は2枝型の遊泳脚となっているが,その外肢後面に薄い板を多数重ねた呼吸器があり,この呼吸器官は鰓書(さいしよ)と呼ばれ,クモ類の書肺に構造がよく似ている。体は甲殻類にも似ているが,2対の触角も大あごもない。脱皮のしかたもエビやカニのように頭胸部と腹部の境に切れめができて,脱げるのではなく,クモのように頭胸部の前縁にできた横の切れめから脱皮する。
食物としては,砂泥底にすむゴカイ類,甲殻類や貝類を捕食する。産卵期は夏で,とくに新月の大潮の夜に盛んである。雌が雄を背負うようにして,上げ潮に乗ってくる。岸近くの浅海の砂浜の砂上をはい,雌が水中の砂底を掘り産卵すると,後ろの雄が精子をかける。産卵が終わると,その上に砂をかけて埋める。そして次の産卵に移る。このようにして産卵を繰り返すので,埋めてできた小さな砂の丘が一列に並ぶ。卵は1ヵ月ぐらいで孵化(ふか)する。幼虫は三葉虫に似た形をしており,脱皮を繰り返して成体に似た形を整えていく。瀬戸内海に多いが,九州沿岸にも生息し,台湾,中国,東南アジアの一部にも分布している。岡山県笠岡湾付近が繁殖地として国の天然記念物に指定されている。ほとんど食用にもされず,漁網にかかり,網を破るので漁師に嫌われる。多くとれると肥料にされたりしたが,人間との直接の関係は少ない。
カブトガニ類は古生代シルル紀におこり,中生代に栄えた古い型の節足動物で,〈生きている化石〉として知られる。現生種からなるカブトガニ科には,ほかにミナミカブトガニTachypleus gigasとマルオカブトガニCarcinoscorpius rotundicaudaが東南アジアの沿岸に,アメリカカブトガニLimulus polyphemusが北アメリカ東岸にそれぞれ分布している。
執筆者:蒲生 重男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報