カルフーン(その他表記)John Caldwell Calhoun

改訂新版 世界大百科事典 「カルフーン」の意味・わかりやすい解説

カルフーン
John Caldwell Calhoun
生没年:1782-1850

アメリカ政治家,政治哲学者。サウス・カロライナ州アベビル地区でアイルランド移民の子として生まれ,南北戦争に向かう激動期を政治的実践と哲学的営為のうちに送り,南部利益擁護と南北戦争の回避を訴え,その政治的方策を模索しながら没す。1804年イェール大学卒業後,自州の下院議員を経て,11年連邦下院議員として登院,12年の対英開戦論者の一人として活躍。J.モンロー治下の陸軍省長官(1817-25),J.Q.アダムズ治下の副大統領(1825-29)の要職にあった後,28年,A.ジャクソンの副大統領(1829-32)に再選されたが,〈ミズーリ協定〉や関税問題を契機に表面化した南北の対立が顕在化すると,やがて辞任し,J.タイラー治下の国務長官(1844-45)にあった期を除く前後を上院議員として送る。南北の奴隷制を軸とした激しい論争の渦中に常にあり,南部の利益を連邦の存続の中で位置づけることに努め,個別利益間の競合関係の中から合意を導出しようとする〈競合的多数制〉を理論化する。この理論を地域的利害を異にする連邦国家において機能させようとしたのが,州人民主権論を軸として,連邦政府に対して発動された無効宣言の理論である。主論稿に,《政治論》(邦訳1977),《合衆国憲法および政府論》がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「カルフーン」の意味・わかりやすい解説

カルフーン
かるふーん
John Caldwell Calhoun
(1782―1850)

アメリカの政治家。3月18日サウス・カロライナ州生まれ。同州下院議員、連邦下院議員、第6代大統領J・Q・アダムズおよび第7代大統領A・ジャクソン治下の副大統領(途中辞任)、連邦上院議員、国務長官の要職を歴任し、南北対立の緊張を深める歴史過程にあって、連邦分裂の危機を訴えるなかで南部の代弁者の役割を果たした。主論稿に『政治論』と『合衆国憲法および政府論』があり、前者は政治についての基本理論を、後者は合衆国という連邦国家の政体とその憲法を論じたものである。彼の理論は、個別利益集団意志の競合と同意のなかから一つの意志を導出しようとする「競合的多数制」にくくられ、連邦国家におけるそれの適用形態の一つが州主権論を軸とした「無効宣言」の理論である。1850年3月31日没。

[中谷義和]

『カルフーン著、中谷義和訳『政治論』(1977・未来社)』『中谷義和著『アメリカ南部危機の政治論――J・C・カルフーンの理論』(1979・御茶の水書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「カルフーン」の意味・わかりやすい解説

カルフーン
Calhoun, John Caldwell

[生]1782.3.18. サウスカロライナ,アベビル
[没]1850.3.31. ワシントンD.C.
アメリカの政治家。アメリカ=イギリス戦争 (1812) 前後は「タカ派」で典型的なナショナリスト。連邦下院議員 (11~17) ,J.モンロー大統領の陸軍長官 (17~25) ,J.Q.アダムズ,A.ジャクソン両大統領の副大統領 (25~32) ,連邦上院議員 (32~43,45~50) を歴任。 J.タイラー大統領のとき一時国務長官に就任,テキサス併合条約を結んだ。 1828年関税法に反対し,「州権論」を主張。 31年連邦法の無効宣言を行なった。強力な奴隷制擁護論を唱え,南北戦争前の南部の立場を代表する政治理論家として有名。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「カルフーン」の解説

カルフーン
John Caldwell Calhoun

1782~1850

アメリカ南部の政治家。副大統領,国務長官,連邦上院議員を歴任。1810年代はタカ派としてアメリカ‐イギリス戦争の開戦を促したが,20年代後半以後は州権論の立場から無効宣言の理論を唱えて保護関税に反対し,南部奴隷制を擁護した。

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百科事典マイペディア 「カルフーン」の意味・わかりやすい解説

カルフーン

米国の政治家・政治哲学者。陸軍長官,副大統領(1825年―1832年),上院議員を歴任。1812年には対英開戦論者の急先鋒で,1820年代末に保護関税に反対して以来,州権論を主張し南部の利益の擁護者となった。《政治論》(1851年),《合衆国憲法および政府論》(1851年)などの著作がある。

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